初志貫徹 -回り道はいくらしても、自分の目標を諦めない-
一般社団法人 HUG 油座通子さん
いわき市で「一般社団法人 HUG」を開業した油座さん 油座さんは「令和7年度 地域課題解決型起業支援事業」に採択、また今年2月に行われた「いわきビジネスプランコンテスト」で最優秀賞を受賞し、3月に分娩非対応型助産院と母子訪問看護事業所を立ち上げました。
近年、いわゆるソーシャルビジネス(社会的な意義を目的とする事業)を立ち上げる方からの相談が多くなってきているという印象がありますが、社会的に必要とされる事業を「収益を生み出しながら継続していく」というのは非常に難しく、志半ばで諦める人も多いのが実情だと聞いています。
しかしながら油座さんは創業後わずか数カ月にして、単月度で「黒字化」を達成できているとのこと。こういった事例にはなかなか出会えません。「社会における必要性」と「事業の採算を確保できる収益性」をどうやって両立させているのか?興味津々で事業所にお伺いしました。
Q:まずはプロフィールを教えてください。
出身は福島県郡山市です。三人兄弟の一番上で年子の妹と3歳下の弟がいます。父は独立して建設会社を経営し、母もそこで手伝いをしていました。父はいつも電話をしているイメージで、常に忙しそうな印象です。自宅兼事務所に住んでいたので、私も小学生の頃から事務所に出入りしていましたね。
子どもの頃はとにかくやんちゃで「思い立ったら即行動」みたいな子だったので、周りの男の子ともしょっちゅう喧嘩をしていました。スポーツはスイミングを習っていたのですが、老若男女問わず地域の方が集まるスポーツの集会があり、そこが好きでよく顔を出していました。それは高齢者の方も一緒になって楽しむ集まりでした。元々人とコミュニケーションをとるのが好きだったことと、自営業あるあるなのか両親がとにかく仕事で忙しくしていたため、一人で遊ぶ方法を自分で考えて過ごしていましたね。
周りと少し違ったのは、中学生の頃に母が病気で入院し、その生活が長期にわたったことです。父が会社や家のことを一人で全部やっていたので、進学先には通信制の高校を選択しました。通信制ならば、家の手伝いをしながら勉強できるんじゃないかと思ったからです。でも、そうこうしている間に祖母も介護が必要になり、母の看病をしながら祖母の介護もするという生活が始まりました。
産後ケアで赤ちゃんをお預かりするサービスも充実Q:助産師まで随分と長い道の感じがしますね?
そうですね。でも当時から助産師になりたいという目標はありました。元々は小学生の時に受けた性教育の授業で、助産師さんの仕事を知ったのがきっかけでした。
私は自分で決めたことは曲げない性格なので、将来の夢のために看護学校に行きたいという思いがありました。その学費を稼ぐために、通信制の高校に通いながらいわゆる夜のお仕事でバイトも始めました。もちろん、年齢は法的に問題なく働けるようになってからです。そこでいろいろな人に出会ったのがとても勉強になりましたね。お客さまの中に、看護学校の先生をしている方達もいたんです。看護師になるためにいろいろな道があることをその時出会った先生方に教わって、26歳で准看護学校に入学しました。実は当時、まだ高校を卒業していませんでしたが、28歳で無事に卒業することができました。
お子さんの離乳食、小食、偏食などに向き合う教室も展開Q:いよいよ看護師デビューですか?
准看護師の資格を取得した頃、結婚していわき市に引っ越します。いわき市の病院で4年間働き、そこから正看護師の資格が取れる茨城県の学校に2年間通って資格を取りました。
ただ助産師になるには、さらに学校に通わなければならず、宮城県の学校で1年間頑張ることにしたのですが、いわき市からの通学はさすがに難しかったので、宮城県に1年間住む選択をしました。子どももいたのですが子育てについては、その頃すっかり元気になった母に来てもらってお願いしていました。
遠回りはしましたが、子供の時からの夢だった助産師になりました。その代わりいろいろな人に出会えましたし、なかなかできない経験もさせてもらえました。
Q:そこから起業になりますか?
さすがにすぐ起業する度胸はなかったので10年間、助産師や看護師として勤務しました。勤務を続けていると、経験も積めますし、わかることやできることも増えていきます。気持ちに余裕が持てるようになり、病院の中であれこれと提案をするようにもなりましたが、大体が通りませんでした。その辺りから起業を考えはじめるようになりました。
私自身は最初から自分で起業しようと思っていたわけではありません。でも勤めながら「自分の理想とすることがここではできない」と悟った時に「自分で起業するしかない」という結論になりました。
そこからお母さんたちに話を聞くため、自分の子どもを連れて公園に足を運ぶようになりました。産後うつのお母さんと出会う中で、「子育ての現場で何が望まれているのか?地域のお母さんが本当に望んでいることは何なのか?」を1年間かけてリサーチしました。
そこで一番感じたのがお母さんたちの「孤立」です。もちろん家族のサポートはありますし、行政のサービスも準備されてはいます。そんな中でもお母さんたちは孤立してしまうということを知ったのです。
Q:もう少し具体的に教えていただけますか?
例えば行政は子育てに関わる様々なサービスがあります。でも担当課が異なり垣根を超えてサポートするのは難しいのが現状です。「その件は○○課に」と言われると、正直、たらい回しにされている気分になります。
ただでさえ子育てにより忙しい日々を送るお母さんたちが、自分が必要とする行政サービスを上手に組み合わせるのは難しいことです。相談してもスムーズに話が進まないと、相談する気力すらなくなってしまいます。
その現状を知り「だったら私がサポートしたい」と思うようになりました。様々な悩みを抱えるお母さんを支える総合的なサービスを提供する施設を立ち上げ、その存在を広く知ってもらえれば、お母さんたちは助かるのではないか。そう思ったのが起業の原点でした。
子育てに向き合うママやパパにも栄養のある食事を提供Q:社会的に必要な事業は、必要なわりに収益性が低く、継続が難しいという見方がありますよね?
現場をずっと見てきたので、これは必ず需要があるし支持されると思っていました。なので、経営が安定しているのは奇跡ではなく、私にとっては自然なことだと思っています。
事業モデルとしては市からの委託事業がベースにあります。これは受託できる施設が少ないので、要件をきちんと満たして立ち上げれば受託できると思っていました。その上で、そこに私たち独自の様々なサービスを提案する形で、事業の収益性と利用者の利便性を高めています。
私達は「サービスや施設を使いたい人」と「その受け皿となる施設」の状況を調べました。その結果、施設数が増えれば使いたい人も増えてくる。「潜在需要がまだまだたくさんある」という結論に至りました。
スタッフや利用者の皆さんとの交流Q:助産院だけでなく訪問看護まで範囲を拡大したのはなぜですか?
私達は現場を見ています。産後のお母さんの様子を見ていれば「このまま退院しても大丈夫かどうか」は高い確率で正しい判断をすることができます。「周囲のサポートはどのくらいあるのか?」と思った時に、地域の保健師さんと連絡を取りあうようにしていますが、そんな状況下でも、様々な理由で助産院に来られなくなってしまう人も出てきます。そんな方のために無料で送迎もしていますし、家から出られない人のためには訪問看護もしています。訪問看護であればこちらから伺えるので、利用者の負担も少ないと思います。お母さんたちだけではなく、家族やその周囲の環境まで把握しないと、適切なケアはできないと感じています。
Q:起業する前に「やっておいてよかったかな」と思うことはありますか?
私達の事業はトータルサービスであり、私達だけでは完結できません。それはわかっていたので、連携先を豊富に持つ必要があります。ですので、とにかく人的なネットワークを大事にして事業を拡大してきました。医療、行政、金融機関…あらゆる所で関係を築いておいたことは良かったと思います。
Q:最後に、これから起業する方へひと言お願いします。
成功者の話を聞きにいくのが良いと思います。私も実際に事業を成功させている人がいれば、飛び込みで会いに行ってお話をお聞きしてました。
それと合わせて、ビジョンを持つことが大事です。目の前に仕事があるかないかだけではなくて、自分なりの世界観や価値観があって、それを達成するために目の前の現場から始めるという考え方が重要だと思います。
一般社団法人 HUG
住所:福島県いわき市山田町砂方66-1
TEL:080-5972-2638
営業時間:助産院24時間対応、母子訪問看護9:00~17:00(日曜日・祝日・年末年始 定休日)
- ホームページ: https://hugiwaki.org/

取材者の声
油座さんにもおそらく、その時には言葉に出せないような苦しみや苦労もあったと思いますが、今ではそれを軽やかにお話できるのは、その時に真剣に頑張った結果なのだとお話を聞いて納得しました。30分ほどの取材のはずが、お話に引き込まれてどんどん時間が伸びて、予定の倍以上の時間をいただいてしまいました。
決して自分がやりたいことをやるだけではなく、その裏に深く読み込まれた事業性の組み立てや、未来に焦点を合わせた次の計画。今後、ますます目が離せない起業家と感じました。
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