移住+起業で成功する秘訣とは?
ドモンパン 土門成秀さん
土門さんとは6年前に、東京で行われた移住者向けの相談会でお会いしたことがあります。当時は新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、さまざまなイベントが中止になったり延期になったりしていたころです。土門さんには、起業家によくある「アクの強さ」や「目立とう精神」などがなく、淡々と涼やかに自分自身の将来について語る様子が印象的だったことを思い出しました。
そんな土門さんが創り上げた店舗は、移住先で起業して成功するための秘密がたくさん詰まった宝箱のような起業事例だと思います。今回はその成功の秘密を明らかにしようと、土門さんのお話をうかがいました。
Q:まずはプロフィールを教えてください。
出身は神奈川県横浜市になります。1984年に生まれ、高校卒業まで地元で育ったので、生粋のハマっ子です。大学進学を機に上京したのですが、祖父母の家が都内にあったためそこから通学していました。
子どものころは活発というか、いまよりリーダーシップがあったように思います。学級委員や合唱の指揮者など、目立つことが好きでしたね。スポーツも好きで、小学生のころは水泳とサッカーに取り組み、中学と高校では走り高跳びとハンドボールに打ち込んでいました。
そのころから料理をすることも好きだったので、自分で食べたい物を作っていました。もちろんパンも好きで、学校で販売されるパンを毎日買って食べていましたが・・・これは高校生ならみんなそうかもしれません(笑)。
大学では経営を学んでいたのですが、同時にアルバイトにも打ち込んでいました。最初はコンビニで、次がイタリアンレストラン。アルバイトを掛け持ちしていたのですが、このイタリアンレストランで初めてピザ生地を焼いたのです。いま思えばここが仕事で「モノを作る」という行為に初めて触れた経験かもしれません。結局、そのレストランでずっとアルバイトを続けていました。
奥様の出身である会津地方で起業Q:そこからパン屋さんを目指すことになるのでしょうか?
いや、まだそこまではいきません。ただ漠然とですが「手に職を付けるのもいいな」「飲食系の仕事に関わりたいな」と思った程度ですね。そうこうしている間に大学卒業が近づいてきて、就職を考えないといけなくなる訳です。パン屋さんも含めていろんな試験や面接を受けたのですが、業務用厨房機器の会社から最初に内定をいただいたので「そこに就職しようか」と考えました。
就職時にパン屋さんの話をしていたこともあり、ベーカリー事業部というパン屋さんを担当する部署に配属していただいたのだと思います。
その会社での仕事は楽しかったですね。自分の企画した提案が採用されると、自分が考えていた店舗ができる訳じゃないですか。そういった点にやり甲斐を感じていました。
ひとつひとつ丁寧に作り上げるこだわりのパンQ:そういった状況なら、そのまま仕事を続けられそうな気もします。
ところが28歳で転機が訪れます。これで人生が変わった方も多いと思うのですが、東日本大震災に見舞われたのです。
当時の会社は南相馬市の小高区に工場を設けていましたが、ここは原発災害で全地域避難となってしまいました。だれもいない町となった小高区には、もうまったく何もないのです。工場もしばらく稼働できない状況が続いたため、お客様に自社製品を売りたくても売れないという事態にたびたび陥りました。
「パン屋になろう!」と決意したのは、まさにそういったタイミングです。「自分で食べ物を作って食べてもらう」という仕事に、どうしてもチャレンジしたくなりました。実はそれまでも、プロ向けのパン教室に通っていたのです。日々営業職としてパン屋さんと話すため、その内容を深めるためにも技術を身に付けていた方がいいと考えたのですね。「自分でも作れた方がいいだろう」と思い、自費で自発的に通っていました。
本当にパン屋になるかどうかは、五分五分くらいの気持ちでした。ただこの震災が自分の中でのターニングポイントになったことは間違いありません。震災で何もできない中で「パンを作って食べてもらおう」と決めたのです。
Q:もの凄い行動力ですが、いきなり起業されたのでしょうか?
いえいえ。「習っていた」といっても、自分なりのパン作りを確立できていた訳ではありません。パンにはさまざまな種類や作り方がありますが「商品として買っていただけるレベルの物を作るには相応の努力が必要だ」と考えて修行に入りました。
想像していたものの、やはり修行の現場は大変でした。理屈では分かっていることでしたが、時間の制約もある中で数を作らなければなりません。何よりパン職人の修行に入るには、28歳という年齢が遅すぎたのです。
そういった苦労もありましたが、3店舗でそれぞれ3年ほど修行させていただきました。足掛け10年にわたって修行したことになります。
季節の食材を使ったパンも販売しているQ:3店舗で修行されたのには、何か理由があったのでしょうか?
いろんな技術を学びたかったからです。1カ所で長く修行する方もいますが、私はさまざまなパンを作れるようになりたかったので「自分が作りたい物を学べる修行先を回った」という感じです。修行先の方々とはいまもいい関係でお付き合いさせていただいています。その中には、当店まではるばる買いに来てくださる方もいらっしゃるほどです。
そのような中で「自分の店を持つ」というイメージが具体的になっていくのですが、生まれ育った横浜市には私が作るハード系のパンを売る店舗も多くありました。
ただ私の妻が会津出身なのですが、そちらでは私が作りたかったハード系のパンを売っている店舗が少なかったのです。そこで「会津に移住して起業する」という選択肢が出てきました。
地元の方にも愛される自慢のハード系パンQ:私はそのころにお会いしているのですが、当初から街なかではなく郊外に店舗を構えたいとおっしゃっていましたね?
はい、最初からそう考えていました。「自然に囲まれた土地でじっくりとパン作りに取り組みたい」という思いをずっと優先させてきたのです。
当時は新型コロナウイルス感染症の全盛期ということもあり、会津に移住してもなかなか出店場所が決まりませんでした。開店準備も進まず、生活費で貯金は減っていくという状況です。派遣会社に登録し、派遣の仕事にも取り組んでいました。
Q:出店場所が見付かったきっかけは、何だったのでしょうか?
移住してきていろんな地元の集まり、移住者の集まりなどに顔を出しました。一緒に活動することで周囲の方の気心も知れてきたところ、その中の1人にこの場所を紹介していただいたのです。
そこからはもうバタバタでした。1日でも早く開業したかったので、物件の契約、工事、検査、開店までわずか4カ月で進めました。
フルーツを使ったデニッシュパンも人気Q:それから4年経ちますが、開店前に考えていたことと開店後で何か違いはありましたか?
当初は観光地の会津にあるロードサイドの店舗なので、観光客の方が多いと思っていました。しかし蓋を開けてみたら、地元の方がたくさん利用してくださったのでびっくりしました。みなさん、潜在的にこういうパンを欲しがっていたのかもしれません。「潜在需要を掘り起こせた」という意味では成功でした。現在もお客様の多くがリピーターの方です。
また連休、お盆、紅葉の時期などは観光客の方もいらっしゃいます。パン屋の売上は通常7~8月の夏場に落ちるのですが、逆に当店はここがピークとなっています。
それにここに来て、地元の方々を含めて連携のお話が次々と入るようになりました。ある宿泊施設には朝食に当店のパンを使っていただき、それを食べた方が帰りに当店でも購入されるのです。
少しずつですが「店舗と商品が地域に認知されてきているのだ」と感じています。
Q:いい感じで進んでいるようですが、何か困っていることなどはありますか?
いまはなかなか休みが取れません。対外的には月曜と火曜が定休日なのですが、実際にフリーなのは月曜の半日くらいです。後は仕込み作業を行うため、毎日店に来ていますね。
ただ現在は製造の方で経験のある従業員を1人雇用しており、気持ちも楽になりました。私が週末のイベントなどに出店していても、問題なく商品ができ上がるという体制は精神的にも助かっています。
Q:起業する前に「やっておけばよかったかな?」と思うことはありますか?
大学では経営学部だったのですが、いわゆる会計がとても苦手でした。そのため、いまは知り合いに会計が分かる方を紹介していただいてお願いしています。やはり最低限の会計の知識を持っていた方が、いろいろスムーズに進むのではないでしょうか。
レンタルスペースなどが活用できれば、模擬店舗などとして試験的に運営してみることも有効でしょう。宣伝やネットワーク作りにも取り組んでおけばよかったと思います。
Q:最後に、これから起業する方へひと言お願いします。
起業する分野にもよりますが、事業計画の見通しが立ったらすぐにでも始めた方がいいでしょう。同じ業界ですでに起業している方がいれば、事前にいろいろ相談することも大切だと思います。自分だけで考えるより、いろんな方々を巻き込んだ方がさまざまな手法が見えてくるはずです。
それと最初から「すべて完璧にやろう」と考えない方がいいと思います。自分でできることからスタートすることがポイントです。「走りながら考える」ことも大切ですが、どちらかだけでもダメなので、バランスを意識しながら進めてください。
ドモンパン
住所:福島県耶麻郡猪苗代町磐里上野2696 番1
TEL:0242-85-8784
営業時間:10:00~18:00(売り切れ次第閉店)
定休日:月曜・火曜
- Instagram: https://www.instagram.com/domonpan/

取材者の声
- お話をうかがっていると「起業者あるある」の苦労話がまったく出ず「上手に起業を成功させたのかな?」と感じました。しかし実際は苦労を苦労とも感じず、目の前のハードルをさっと飛び越えていったようです。そういった点も素晴らしいと感じました。
土門さんを見ていると、移住先でとにかくさまざまなネットワークに参加して知り合いや友人を増やしていったようです。そのネットワークの中で自分も仲間も成長していくという「移住者が起業で成功する方法」を実践されてきたことがよく分かりました。
土門さんがおっしゃるように、起業当初は走るだけでも考えるだけでもダメです。両方をバランスよく同時にこなすことが大切なのですが、これは簡単なようでなかなか実現できません。そこのマルチタスクを難なくこなしていく姿に、土門さんの凄さを感じました。
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