すべては「困った人を助けたい」という熱い想いから
移住後にカフェから食堂まで次々と展開
cokuriya/食堂てて 店主 松野和志さん
都心からの移住を考える際、まず頼りにするのが東京有楽町にある「ふるさと回帰支援センター」ではないでしょうか。ここは日本中の情報が手に入る移住相談センターです。そこで福島県を担当している相談員の方から「面白い移住者がいる」という情報をお寄せいただきました。2023年に南相馬市に移住し、1年後にカフェ「cokuriya(コクリヤ)」を開設。たちまち軌道に乗せるや翌年の夏には2店舗目をオープンさせ、順調に営業中だというのです。「初めての土地で矢継ぎ早に事業を展開できるものなのかな?ひょっとして天才?」。いろんな「?」を頭の中でグルグルさせながら、指定された「食堂てて」に向かいました。
Q:まずは松野さんのプロフィールを教えてください。
1994年、神奈川県に生まれました。子どものころはサッカー少年で、本気でプロ選手を目指していたほどです。小学校高学年のころには、ブラジルへのサッカー留学を希望していました。
でも地元の中学校に上がると、何となく自分の限界も見えてくるものです。そこで目標を勉強に切り替え、入学式の日から1日3時間勉強するようになりました。中学3年の夏には中学の勉強も全部終わり、一転してゲームに明け暮れていましたね。当時の高校入試は内申書と面接でOKだったので、無事に進学することができました。しかし高校ではその反動でまったく勉強しなくなり、赤点ばかり取っていました。
そういった中、高校1年が終わるタイミングで東日本大震災が起こったのです。夏休みには友人と連れ立って、宮城県石巻市の現地ボランティアセンターに行ってみました。当時は震災から半年ほど経った時期です。神奈川県では被災地の報道も緩やかになっていましたが、現地の道路は泥だらけで流された車の残骸が積み重なっている状態でした。
その際に体験したことや感じたことが、私の生き方の原点になった気がします。その後大学に進み、就職活動に取り組んだ際に「困った人がいたときに助けられる仕事に就きたい」と思ったのです。
奥様にゆかりのある浜通りで二人三脚の起業Q:かなり振り幅が大きな人生を予感させますね。
そうですね(笑)。具体的には医者か自衛隊を考えていましたが、文学部出身なので医者は無理でした。そこで幹部候補生として、陸上自衛隊に入りました。
そこで3年間働きましたが、自衛隊が役立つのは基本的に「非常時」でした。そういった中で私自身「日常的に人を助けたい」という思いが強くなったため、転職することにしました。新たな仕事は、電力会社の関連会社の営業職でした。しかし転職後には、コロナ禍がやって来て、ここで「果たして東京で暮らしていていいのか?」と悩むことになりました。
その当時は丁度、地方移住がブームになっていたころでした。オンラインセミナーなども多数実施されていたため、真剣に移住を考え始めてあちこち検討していました。山梨県や長野県をはじめ、釣りが好きなので九州や四国なども考えました。そうして最終的に福島県へ移住しようと決めたのです。福島県に行くと言っても、南相馬市ありきという訳ではありません。いろいろ検討しましたが、南相馬市役所の方が熱心だったことに加え、妻が浜通り出身ということもあってここに決めました。
【cokuriya】勉強熱心な奥様が作るここでしか味わえない焼き菓子Q:飲食店を開業した方からは、どこかで修行したり熱心に勉強したりといったエピソードが多いのですが、松野さんはどうでしたか。
そういう意味では、妻がそうですね。この事業は妻と共同で取り組んでいるものですし、どちらかと言えば私が妻の独立を後押ししたという形かもしれません。妻は学校を出ると最初に焼き菓子屋に就職し、手に職を付けています。
そういう訳で、当店のお菓子は妻しか作れません。料理のレシピも妻が組み立て、それをスタッフ全員で作っていくのです。
とにかく2人とも食べることが好きなので、どこかに行こうかというときも「そこで何を食べるか」がメインテーマになります。旅行する際も、そのテーマから目的地やスケジュールなどを組み立てていくのです。
【cokuriya】焼き菓子だけでなくコーヒーや暮らしの雑貨なども販売Q:そこから移住してカフェ「cokuriya」を開店させるのですね。
当初は山の中のポツンと一軒家みたいな場所で始めるというイメージを持っていたのですが、見知らぬ土地なので理想の物件を探せる当てもありません。現在のcokuriyaはいろいろご紹介いただいた中で、最終的に選んだ場所でした。しかも南相馬市の中心ではなく、鹿島区という北に寄った地域になります。ただ全国で飲食店をめぐった中で「いい店を作ればどこにあってもやっていける」ということは分かっていました。
相馬市と南相馬市の中間でもあるので、両方からお客様に来ていただける点は大きいです。お客様は相馬市と南相馬市で4割、福島市など県内他地域で2割、地元の鹿島区で2割を占めていますが、東京や仙台市からもおいでいただいています。このサイズのカフェとしては、商圏がかなり広い方ではないでしょうか。
【食堂てて】奥様が考案したレシピで提供される週替わりのメニューQ:翌年には「食堂てて」もオープンさせていますね?
お陰様でcokuriyaは順調に営業でき、経営も軌道に乗るようになりました。しかし同時に限界も感じ始めたのです。
まず店舗が狭くて駐車場も限られるので、イベントのようなことはできません。月に数日のみ実施していたランチは好評でしたが、キッチンも狭いのでお菓子も料理もすべて手作りで提供することに限界も感じていました。またcokuriyaは妻の作るお菓子が人気だったのですが、出産や育児といった今後のライフステージを考えると「妻がいないと回せない店だけでいいのか?」という不安もありました。
こういった状況から、私たちは「きちんとした料理が提供できる店」を必要としていました。逆に言えば「そういった店舗があれば生活が成立するだろう」と考えた訳です。cokuriyaが軌道に乗ったタイミングで、また新たな出店場所を探し始めていました。
食堂ててを始めたこの建物は、もともと別の食堂が入っていた場所です。ただ経営的に上手くいかなかったようで、南相馬市が入居者を公募していました。そこで「やってみよう」と応募してみたのです。
【食堂てて】地元の食材を使用して作るおまかせのお弁当Q:料理や店舗について、何かポリシーを決めていたら教えてください。
「顔が見える人が作った食材を使って提供したい」と考えて取り組んでいます。この土地で取れた物を使い、その季節で旬の物を使った料理を提供することを大切にしてきました。メニューは週ごとに変えています。
お店は宣伝しませんし、看板も付けていません。チラシもまかないようにしています。利用した方の口コミ、紹介、リピートが中心です。友達が友達を連れてくるようなお店を作っていけば、おのずといいお店になると思います。
【食堂てて】落ち着いた雰囲気の店内と四季を感じられる景色Q:2店舗を回すとなるとダブルワークになりますが、体力的にしんどくなりませんか。
最初は「地方に移住してのんびりと・・・」なんて思っていましたが、とんでもないですね(笑)。いまは火曜から金曜まで食堂ててを営業し、金曜から日曜までcokuriyaを営業しています。月曜は仕込みに当てているので、正直休みがない状態です。
移住したばかりのころも日々食べていくための仕事に取り組みながら、寝る間も惜しんでcokuriyaの事業計画を考えていました。まあ、ずっと走りっぱなしの状態ですね。
Q:起業する前に「やっておけばよかったかな?」と思うことはありますか。
これは実際にやったことですが「事業計画を綿密に作っておいてよかった」と思います。ちょっとした補助金申請に付けるような内容ではなく、事業計画では数字を具体的に細かく上げた別表も多数付けておいたのです。この点は本当によかったと感じています。
Q:最後に、これから起業する方へひと言お願いします。
「起業したい」という方と話していると「いつかやりたい」「もうちょっと○○が整ったら」とおっしゃることが多いです。しかし、そういった条件が完璧にそろうことなどまずありません。本当に「起業したい」と思うなら、実際の行動に移すべきです。
cokuriya(コクリヤ)
住所:福島県南相馬市鹿島区西町1-19-2
営業時間:11:00~17:00
営業日:不定休(SNSに掲載)
- Instagram: https://www.instagram.com/cokuriya/

食堂てて
住所:福島県南相馬市原町区本町2-52 銘醸館内
TEL:080-2474-4896
営業時間:11:00〜16:30 (Lo.16:00)※ランチは14:00まで
営業日:火曜~金曜(SNSで確認ください)
- Instagram: https://www.instagram.com/shokudo_tete/

取材者の声
いただいた名刺がすべてを物語っています。名刺には「松野」とだけ記されていました。松野さんは「経費節減のため、妻と私で共通の名刺を作りました」と言いますが、このお二人によるユニットだからこそ実現した起業なのでしょう。
遠方からのお客様にも求められるお菓子を作り、他社が撤退した食堂を繁盛店に変えるレシピまで手掛けた奥様。緻密な計算と大胆な経営戦略に加え、対外的なスポークスマンまでこなす松野さん。このお二人だからこそ、移住して間もなく2店舗展開を成功させることができたのではないでしょうか。お話をうかがううち、そんな風に謎が解けていく取材となりました。
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