フレンチの技法から生まれた喜多方ラーメン
地元で足場を固めながら挑んだ激戦区での開業
Là Là Gottsuo 店主 井上幸司さん

喜多方市にラーメン店「Là Là Gottsuo」を開業した井上幸司さん。

 2025年4月、喜多方市にオープンしたラーメン店「Là Là Gottsuo(ララゴッツォ)」。その店主である井上幸司さんは、もともとフレンチのシェフだったそうです。長年ホテルの厨房で働いてきた井上さんは、コロナ禍の2022年に喜多方市へ帰郷。フレンチレストランの開業を目指しますが、紆余曲折あって喜多方市らしくラーメン店を始めることになりました。聞けばラーメン店での修行経験はなく、提供されているメニューはフレンチの技法の中で開発されているとのこと。そんな独特の一杯を手掛ける井上さんに、フレンチの世界からラーメン激戦区に飛び込んだ経緯や開業までの道のりなどについて話をうかがいました。

Q:初めに主なプロフィールを教えてください。

 高校までは地元の喜多方市で過ごし、卒業後は郡山市にある料理の専門学校に進みました。専門学校を卒業した後は郡山市内のホテルに就職し、主に西洋料理、フレンチを担当していました。そのホテルには10年ほど勤めました。
 その後には、ある病院の理事長室付き料理人という仕事も経験しました。その理事長は料理が趣味で、定期的に病院の職員を集めて料理を振る舞っていたのです。そこでは3年ほど勤めました。
 その後2022年に地元の喜多方市へ戻るのですが、ちょうどコロナ感染がひどかった時期で、地元で「飲食店を始めようかな」とも考えていましたが「さすがにコロナ禍の最中は難しい」と判断。そこで同級生と一緒に食品加工事業を始めたのです。具体的には同級生が経営していた日用品の卸売会社内に食品加工事業を立ち上げ、私が取り回していました。

Là Là Gottsuoの喜多方ラーメン。井上さんが幼少時に食べた、懐かしい味わいを目指して開発されました。
Q:そこから開業されるのだと思いますが、何がきっかけだったのでしょうか。

 地元に戻った当初は「お店を出すなら洋食で」と考えていました。そこから3年ほど街並みを観察して考えていましたが「洋食1本での出店は難しい」と感じたのです。喜多方市は人口規模も限られるため、フレンチで日々来店客を確保するのも大変です。そこで「客単価を下げて大勢の方に来店いただく形が必要だ」と考えたのです。
 喜多方市でそういったお店を考えると、自然とラーメン店に行き着きます。自分自身の調理技術を見詰め直してみると、スープ作りは西洋料理仕込みの得意分野でした。また肉料理の経験も重ねてきたので「チャーシュー作りもうまくいくだろう」と感じたのです。フレンチの経歴を知っている方々からは「何でラーメンなの?」と聞かれましたが、これまで西洋料理で学んできた技術や経験はラーメン作りの大きな自信となりました。

Q:実際のラーメン作りもスムーズに進んだのでしょうか。

 メニュー開発ではあれこれ試行錯誤を重ねています。スープ作りには自信があったものの、醤油などの素材に慣れていなかったのです。子どものころに食べていた懐かしい喜多方ラーメンをイメージしていたのですが、その味を再現するにはさまざまな醤油を実際に使ってみるしかありません。中には昔あったお店の関係者や常連客から当時使われていた醤油を聞き出し、それを手に入れて試したこともあります。そのようにして素材や配合を変えながら何度もスープを作り直し、目指すべき味を探っていったのです。
 麺の方は、地元の製麺所さんに相談し、太さ、形、加水率などを少しずつ変えながら何度も試しています。スープとの相性に注意しながら、細かい仕様を決めていきました。

フレンチにも合うようコーディネートされた店内。木目のほか、ベージュとブルーの壁でまとめられています。
Q:開業のタイミングや狙いについて教えてください。

 当店は2025年4月20日にオープンしました。このタイミングになったのは「入れる物件が見つかったから」という理由が大きいです。ここは以前もラーメン店で店構えは以前の物をほぼそのままの形で残しています。
 ただ内装はいつでもフレンチのお店に切り替えられるよう木目を生かしたカウンターやテーブルを採用し、店内には25席を確保しました。
 「Là Là Gottsuo(ララゴッツォ)」という店名は、会津の方言でご馳走を意味する「ごっつぉ」から取っています。「Là」はフランス語で「そこで」「そこに」といった意味があり、本来二つ重ねて使うことはありません。あえて連続させることでここでしか味わえない料理体験を強調しています。全体として「会津のご馳走でおもてなしし、食を通して皆様に喜びをお届けしたい」という願いを込め、名付けました。

Q:お店ではどういったメニューを提供されているのでしょうか。

 子どものころに食べた、昔ながらの喜多方ラーメンをイメージして調理に当たっています。目指してきたのは、コクが深いのにあっさりした味わいです。フレンチシェフとして身に付けたブイヨンやフォン・ド・ヴォーの技法を使い、鶏ガラや豚の旨味がしっかり感じられるような一杯を心掛けてきました。
 また喜多方ラーメンだけでは「自分らしさが出ないのではないか」と考え、西洋料理の技法を駆使したムール貝潮ラーメンも提供しています。これは「旨味の強い貝出汁はラーメンに合うのではないか」という発想から生まれたメニューです。女性客に人気で、SNSなどにもよく上げられています。
 昼間はラーメン店として営業していますが、予約を受け付けて夜の営業も行っています。夜の営業は地元の方や知り合いを中心にご利用いただき、ワインと一緒に味わえるような洋食やフレンチを提供しています。お陰様で思いのほかご予約いただいています。

優しい色合いで来店客を迎えるLà Là Gottsuoののれん。今後は地元食材の使用にも力を入れるそうです。
Q:起業で大変だったことがあれば、どう乗り越えたのかも含めて教えてください。

 大変だったのはやはり資金面ですね。資金をどうやって借りようかと真剣に考え、いろんな方々の話を聞いて回りました。その中で日本政策金融公庫さんや商工会議所さんから借りた方にお話をうかがうことができたのです。事業計画を細かく作成し、分かりやすく伝わるようにしました。
 いろんな方に相談したうえで最終的にラーメン店を選んだのですが、間口が広いメニューなので集客できているのかもしれません。またラーメン好きなお客様に評価されたことで広めていただいたのではないかと思っています。
 お陰様でオープン後も何とか運営できていますが、やりたいことは尽きません。「自分がもう1人いればいいのに」と思いながら、お店を軌道に載せるべく日々仕事に取り組んでいます。

Q:起業する際に役立ったことについても教えてください。

 開業前に他のラーメン店で修行することも有効だと思いますが、私の場合はあえてそうしませんでした。当店のメニューはいわば、フレンチ技術で生まれたラーメンとも言えるのではないでしょうか。西洋料理には食材を煮出してスープを取る「フォン」という技法もあり、ラーメンの調理にも近いと感じます。ラーメン作りには、これまで身に付けてきたフレンチの味や技術が大いに役立ちました。
 その一方でメニュー開発ではたくさんのラーメン店を回り、味の研究を重ねています。目指していた懐かしい喜多方ラーメンの味を求め、地元の醤油メーカーや販売店なども訪ねました。
 また店舗近隣の方にも気に掛けていただいたようです。オープン前は2カ月ほど店舗の準備や掃除を行っていましたが、通り掛かった際にはお声掛けや差し入れなどをいただきました。出店に当たっては特に「場所に恵まれた」と感じます。

Là Là Gottsuoのメニュー。井上さんが料理人となったのは小学生時に祖母と料理したことがきっかけです。
Q:最後に起業してよかったことや起業を目指す方へのメッセージをお願いします。

 地元のお客様が「懐かしい味がする」「どこどこのラーメンに似ている」などとおっしゃって召し上がってくださると、手ごたえを覚えます。イメージ通りの味が「ちゃんと届いているのだ」と感じるのです。
 また起業を目指す方には「だれかにお金を借りた方が実現しやすい」ということを伝えたいですね。起業時はよく「スモールスタートで」と言われますが、スモールスタートするにしても日々生活していかなければなりません。お金を借りることでプレッシャーを感じてしまう方も多いでしょうが、あまり重くとらえすぎない方が前向きに取り組めると思います。
 前向きに取り組めれば、やりたいことの追求には「相談先に分かりやすく事業計画を伝えることが大切だ」と気付けるはずです。コンセプトを明確にして伝えることは、適切なアドバイスや支援先の紹介にもつながってきますから。

Là Là Gottsuo(ララゴッツォ)

住所:〒966-0817 福島県喜多方市字三丁目4840-1
営業時間:10:00〜15:00(LO14:30)※スープがなくなり次第終了
定休日:毎週月曜日
駐車場:7台(店舗裏手)

取材者の声

  • 氏名: 菊地隆広(キクチタカヒロ)
  • 所属等: 株式会社日本政策金融公庫会津若松支店 国民生活事業融資課 上席課長代理

 井上さんからは「地元に深く溶け込んでいる創業者」という印象を受けました。相談を受けた際には、すでに地元の商工会議所や事業者との関係性が築かれていたようです。関係各所からさまざまなアドバイスを受けるなど、その効果も出ていると感じました。
 起業時に大切なのは、やりたいことを明確にして準備を進めていくことです。その点、井上さんは起業内容がはっきりしていて、周囲の方にも分かりやすく伝えられたのでしょう。それが周囲との関係性構築にもつながっていると感じました。
 起業時には、さまざまな形で「取り次ぎ」が発生します。相談先から金融機関や官公庁などへの取り次ぎ時にきちんと起業の概要が伝われば、最終的にいい形での支援につながるのではないでしょうか。
 起業を考えている方は自分1人で考えるだけでなく、そういった形で周囲を巻き込むことも意識してほしいと思います。

株式会社日本政策金融公庫会津若松支店 国民生活事業融資課 上席課長代理 菊地隆広

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