だれもが自分らしく生き、明日が待ち遠しくなる世の中へ
― 福祉と地域の架け橋として笑顔があふれる居場所づくりに挑戦 ―
NPO法人Sosora garden 代表理事 石川麻実さん
特定非営利活動法人Sosora garden代表理事を務める石川麻実さん。伊達市と福島市で就労継続支援B型事業所「モンステラ」を運営する特定非営利活動法人Sosora garden(ソソラガーデン)。代表理事の石川麻実さんは「人を大切にできる場を自分の手で作りたい」という思いから創業を決意しました。資金難など幾多の困難を乗り越えながら、一歩ずつ前に進んできた石川さん。「昨日より今日の自分が好きになれる、明日が待ち遠しい社会を実現したい」という言葉通り、石川さんは福祉と地域の架け橋として飽くなき挑戦を続けています。
伊達市に立地する就労継続支援B型事業所モンステラ。Q:創業のきっかけは何だったのでしょうか?
学生時代は学校こそ好きだったものの、勉強や課題が苦手でした。高校卒業後は、携帯ショップや衣料販売で働いていました。20代前半で2人の子どもを出産し、シングルマザーとして子育てに取り組んできました。子育ては楽しいことも多かった一方で「子どもにとって自慢のお母さんになれているのだろうか?」と悩む時期もありました。
転機となったのは、東日本大震災が起きた後です。自衛官だった兄が災害派遣に出ていた中、現地で急に倒れて亡くなってしまいました。兄は入籍してまだ2週間という時期で、私たち家族にとってあまりに突然の別れとなったのです。その出来事をきっかけに、私の中で「亡くなった兄の分まで生きる」「自分らしく生きる」という気持ちが強くなっていきました。
その後は高齢者福祉の現場で約10年間、働くことになります。毎日お爺ちゃんやお婆ちゃんと過ごす中で、次第に「この仕事が天職だ」と思うようになっていきました。ただその一方で、同じことを繰り返しているような閉鎖的な支援に違和感も感じていたのです。
福祉に取り組む中では「もっと一人一人がその人らしくいられる場を作れないか」と考えていたのですが、そんな時期に出合ったのが就労継続支援B型事業所の仕組みでした。この仕組みを通して「障がいのある方と一緒に働きながら楽しい挑戦を共有したい!」と感じたのです。この思いが、私が創業に取り組む原点となりました。
2カ所目の拠点となったモンステラいいざか事業所。Q:Sosora gardenの事業の特徴や現場で大切にしていることを教えてください。
Sosora gardenでは、まず「やってみたい」という気持ちを大切にしています。利用者様の可能性を、こちらから一方的に決めつけないことが重要です。「できる」「できない」ではなく「どうすればできるか?」について、一緒に考えることを意識しています。
もうひとつ大切にしているのが、対等な関係性です。障がいのある方も、そうでない方も、同じ仕事に取り組む仲間として差はありません。支援する側、される側という立場の差が、虐待や身体拘束などの問題につながることもあります。だからこそ、人として同じ目線で関わることを徹底しているのです。
送迎範囲はかなり広く、福島市内のほか、伊達市や国見町方面にも足を運んでいます。これは通所しやすさを重視しているためです。昼食は1食300円で、あたたかいご飯を提供しています。物価高で食費を抑えたい方も多いので、健康を守るためにこの水準としました。
また在宅支援も積極的に取り入れ、現在では約3割の利用者様が在宅で作業に取り組んでいます。外出が難しい方には職員が訪問したうえで、作業をサポートしてきました。
現在は伊達市の事業所と、2025年9月に開設した飯坂事業所の2拠点を運営しています。さらに業務委託を受け、飯坂温泉にある居酒屋「夏目」の運営にも取り組んできました。地域の方々とつながりながら、障がいのある方の新しい働き方を広げていきたいと考えています。
道の駅伊達の郷りょうぜんのチャレンジショップに出店したベビーカステラ店。Q:創業して辛かったこと、それをどのように乗り越えたのかについて教えてください。
創業して一番の失敗は「理想を追いかけすぎて、同時に二つの事業を始めてしまったこと」です。伊達市での就労継続支援B型事業と同時に、道の駅りょうぜんのチャレンジショップでベビーカステラ店も立ち上げたのですが、いま振り返るとこれは本当に無謀でした。「利用者様の仕事の幅を広げたい」「現金収入をしっかり確保したい」という気持ちが強すぎ、経営的なバランスを見失っていたのだと思います。
両方を同時に動かしたことで設備投資や人件費がかさみ、1年も持たずに資金がなくなりかけたのです。「こんなにがんばっているのに、なぜ資金が減っていくのか」という焦りが大きく、心が折れそうになりました。
モンステラで日々取り組まれている作業の様子 困った挙句、福島駅西口インキュベートルームの相馬さんに相談させていただいたところ「まず現実を数字で見える化しましょう」とアドバイスをいただき、一緒に資金繰り表を作成していただけたのです。収入、人件費、家賃などの支出をすべて整理し、資金の流れを見える形にしたことで、何が問題なのかが初めて明確になりました。この資金繰り表を基に、金融機関へ必要な金額と根拠を説明して追加融資を受けることができたのです。このアドバイスがなかったら、正直ここまで続けられていなかったのではないかと思います。チャレンジショップの出店は結局、期間満了の1年を待たずに9カ月で撤退することになりました。
もうひとつの苦労は、集客でした。開設当初は利用者様がゼロで、まったく知られていないという状態です。就労継続支援B型は利用者様の通所実績がそのまま給付金収入につながるため、まず利用者様を増やさないと始まりません。
そこで、福島市や伊達市の相談支援事業所を1軒ずつ回り始めたのです。支援学校や関係機関にも足を運び、ポスティングやSNSでの発信も続けました。見学に来てくださった方には清潔な環境、在宅支援、送迎体制などを丁寧に説明。安心して通っていただけるよう、細やかな対応を心掛けたのです。すると半年くらい経ったころから少しずつ信頼が広がり、現在はキャンセル待ちが出るほどになりました。当時の地道な活動は、私の大きな財産となっています。
創業後の経験からは「理想を持つことは大事だが、数字を見て現実を理解することも同じくらい大切だ」ということが学べました。
屋外では野菜畑での農作業も行われています。Q:創業を通じ、どのような成長や学びが得られたのでしょうか?
創業に取り組んだ中で、考え方や行動が大きく変わったと思います。最初のころは分からないことだらけで、頭の中にモヤがかかったような感じでした。しかし「経験者や現場の生の声を聞く」「恐れずに行動あるのみ」「専門家を頼る」という三つの行動を続けたことで、少しずつ視界が開けていったのです。
分からないことがあれば、先輩創業者を訪ねて「教えてください」と素直にお願いしました。知ったかぶりせずに助けを求める勇気を持つことで、大勢の方に力を貸していただけたのです。支援機関の方々にも相談を繰り返し、そのたびに「できない理由」ではなく「できる方法」を一緒に考えていただきました。
そういった中で利用者様の笑顔や小さな成長を見るたびに「この空間を守りたい」という思いが強くなったことも大きいです。それがいま、私の原動力となっています。
利用者様が手作りしたお菓子や雑貨などの商品。Q:今後のビジョンを教えてください。
いまは飯坂温泉「鯖湖湯(さばこゆ)」の目の前に、新しい販売拠点を整備している最中です。利用者様と一緒に漆喰を塗り、店舗の外装からみんなで手作りしています。ここでは利用者様が作った焼き菓子や雑貨、地元の農家さんの野菜などを販売し、地域の方々が気軽に立ち寄れる場を作っていきたいですね。
私が目指しているのは「福祉が地域の中で自然に存在している」という状態です。支援する側、される側という線引きをなくし、だれもが役割を持って関わり合える社会を実現したいと思います。利用者様が地域の一員として「ありがとう」と声を掛けられる、そんな日常を増やしていきたいです。
合わせて工賃アップも必要でしょう。仕事が増えることで収入が上がれば、利用者様の自信や誇りにつながります。地域の方々や企業と連携しながら、仕事の幅を広げていくことが次の目標です。
「昨日より今日の自分が好きになれる、明日が待ち遠しくなる」。この言葉を胸に、これからも利用者様と一緒になって、地域の中で自分らしく生きられる環境を作り続けていきたいと思います。
NPO法人Sosora garden(ソソラガーデン)
住所:〒960-0201 福島市飯坂町字横町11-4
TEL:024-573-9250
FAX:024-573-9251
- ホームページ: https://sosoragarden.net/

取材者の声
- 氏名: 相馬由寛
- 所属等: 福島駅西口インキュベートルーム統括マネジャー
「理想を形にしようとする力」と「現実に向き合うしなやかさや粘り強さ」を合わせ持つ石川さん。幾多の苦労を乗り越えながら前向きに福祉と地域をつなげていく姿は、まさに挑戦する女性起業家のモデルケースです。石川さんの経験談は、幅広い創業者を勇気づけてくれることでしょう!
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