大好きな映画の影響でパン作り熱が再燃
人気店での修行を経て福島市の市街地に開業
ちいさなパン屋blé 店主 野尻基晴さん

福島市にちいさなパン屋bléを開業した野尻基晴さん。

 福島市の野尻基晴さんは2024年11月、ちいさなパン屋bléをオープンさせました。人気商品となっているのは、可愛らしいどうぶつパンや2色のねこ食パン。そういった中で、野尻さんはキューバサンドやグリルチーズサンドをオススメしています。話を聞いてみると大学時代は電子工学を勉強し、卒業後はPC関係の仕事にも就いていたそうです。そんな野尻さんがパン屋を開業するにいたったのは、ある映画がきっかけだったのだとか。開業1周年を機に、起業への経緯やパン作りへの思いなどを尋ねてみました。

Q:最初にこれまでの主だった経歴を教えてください。

 福島市で生まれ育ち、聖光学院高校卒業後には広島県にある大学で電子工学を勉強していました。そこを卒業した後、東北南部で大手ドーナツチェーンを経営している会社に就職しています。その会社が独自のカフェを立ち上げるというので興味を覚え、受験してみたのです。当時は地元に戻るか、広島県など地方で働くか、東京に出ようかという状況。いくつか内定を得た中でその会社を選び、ドーナツチェーンに配属されて働き始めました。
 就職活動時はPC関係の会社なども受けています。しかしカフェ好きだったこともあり、ドーナツチェーンで働くことにしました。2年ほど働いた後、福島市内にできる新しいパン屋に移っています。
 その後はPC関係の仕事に就きたくなって市内の印刷会社に入りましたが、そこがなくなってしまったので郡山市の会社に転職。PCや防犯機器といった機械の修理と設置を担当し、その後ソフトウェアの営業に取り組んでいました。

人気商品のどうぶつパン。今後はイベントに出店しての販売も視野に入れています。
Q:専門分野であるPC関係の仕事に就きましたが、またパン屋に戻ってくるのでしょうか。

 コロナ禍前にはもう一度パン屋で働きたくなり、郡山市のパン屋で、独立開業を前提として5年間働きました。食パンなどが美味しくて、クリームボックスも人気でしたね。
 開業したのはそのパン屋を辞めた後です。2024年11月28日にこのお店をオープンさせました。店名の「blé」はフランス語の「goût du blé(グー・デュ・ブレ)」という言葉が由来です。これは小麦粉のパッケージなどに書いてある言葉で「小麦の味わい」といった意味になります。その響きや意味合いが「何となくいいな」と感じていましたが、一文すべてだと長くて覚えにくいので「blé」のみにしました。
 お客様からも実際に「ブレさん、ブレさん」と呼ばれているので、覚えやすいと思います。

Q:起業のきっかけや経緯について教えてください。

 きっかけは40代手前で将来を考えたとき、ものづくりが好きだったので「ずっと自分で何か作って働いていきたいな」と感じたことです。
 そのタイミングで昔から好きだった「シェフ」という映画を見たのですが、そこに出てくるキューバサンドがとても美味しそうに見えたのです。そこでパン屋で働いた経験もあるし、もともとカフェ好きということもあって「自分で美味しい物を作って売ってみたい」と考えるにいたりました。
 実は福島市内のパン屋を辞めてからも、自宅でずっと食パンを作り続けていました。

ナチュラルな雰囲気の店内ではパンを販売するだけでなく、イートインスペースも設けられています。
Q:起業に当たって大変だったことは何ですか。

 やっぱりスケジュールでしょうか。これが一番大変で、結局すべてにお金が掛かるのです。この物件を借りる際にも、借りた瞬間から電気代、水道代、家賃が発生します。そこでまず考えたのが「どれだけ最短でオープンできるのか」ということでした。準備に時間を掛けても、資金がただ減っていくだけですからね。
 「自分の資金だけで起業しよう」と思った時期もありましたが、そうすると余剰金がなくなるので悩みました。仕入れにしても1カ月前倒しで伝えなければなりません。そこで半分は自己資金でまかない、もう半分は融資してもらおうと考えました。
 私も深くは知らなかったのですが、前に勤めていたパン屋の3代目社長がもともとフランス料理店を経営されていたのです。社長から当時の話をうかがっていたのですが「日本政策金融公庫さんで資金を借りられる」と聞いて「私も借りてみようか」と考え、相談にうかがいました。

Q:金銭面以外で心掛けてきたことなどはありますか。

 パン職人としての感覚を忘れないようにすることを意識していました。パン作りから離れすぎていると、感覚が変わってしまうのです。仕入れに関してはパン屋の勤務経験もあったので、そこまで苦労しませんでした。郡山市のパン屋の仕入れ先に相談できたことも大きかったです。
 商品開発では、当初考えていた物をひと通り作ってみました。当初のプランからかなり変わりました。オープン時からけっこう増えていますし、ラインアップのうち1〜2種類は思い付きでどんどん変えています。あまり数が出なかった物はすぐ変えていくという形で作ってきました。

店内のインテリアは野尻さん自身が制作しているそうです。パン作りも含めて手仕事を大切にしています。
Q:起業時に何か役に立ったことはありますか。

 電子工学を専攻していたので電気関係やPCの知識があったほか、印刷会社で働いていた際に身に付いたノウハウも役に立っています。
 店内のポスターなどはPCを使い、自分で制作しました。機械の修理も行えるため、いざというときにも焦らずに済んでいます。開業前にはお店の壁紙なども自分で貼っていきました。
 自分でやるべきことが出てきたときには、PCでネット上の事例を集めて参考にしています。実際には公庫さんに資金を借りる方法、税金、保険といったお金関係についていろいろと調べていました。
 また開業後は前に勤めていたパン屋や勤務先の同僚に来店していただいたので、本当に嬉しかったです。大学の友人にはWEBサイト制作をフォローしてもらいました。チラシ制作は中学校の友人に助けてもらい、オープン初日にも手伝ってもらっていました。

Q:仕事のやり甲斐や起業してよかったことがあれば教えてください。

 やり甲斐としては、お客様と実際に対峙することが面白いと思います。お客様の「美味しかった」という言葉が一番嬉しいですね。新しい商品を作ったときの反応も興味深いです。いまいちな出来ならいまいちなりの反応ですし、美味しかったら美味しいという雰囲気がその瞬間に分かります。
 お店を運営していくコツは、割り切りですね。自分でできる、できないと判断することも結局は割り切りなのだと思います。
 最初のころは私も「おしゃれな具材をたくさんパンに挟んで出したい」「もの凄くボリューミーなデニッシュを作ろう」などと考えていました。しかし実際に1人で切り盛りしていると、これがなかなか難しいのです。そういった自分でやり切れないことを無理に頑張っても「多分自分が潰れるな」と思ったので、いろいろと割り切りながら取り組んでいます。

野尻さんのオススメ商品であるキューバサンド。映画に出てきたメニューに憧れて手掛けています。
Q:商品の売れ行きについてはいかがでしょうか。

 当店では、どうぶつパンが人気です。猫、熊、ライオン、パンダなど、さまざまな動物の顔をモチーフに作っています。また白黒2色でハチワレの猫をかたどった、ねこ食パンも売れ筋です。
 特にオススメしたいのは映画の影響で作っている、自家製ローストポークのキューバサンドと3種のチーズのグリルチーズサンドですね。このうちキューバサンドはハードに焼き上げたフランスパンを使い、調味料を工夫して和風テイストが感じられるよう仕上げています。またグリルチーズサンドにはチェダー、パルメジャーノ、とろけるチーズを使い、サクカリ食感にしている点が特徴です。
 これから起業しようと考えている方には「経費についてちゃんと計算した方がいい」と言っておきたいですね。赤字かどうかだけでなく、生活できるかどうかの損益分岐点をしっかり把握したうえで経営することも大切でしょう。

ちいさなパン屋blé

住所:〒960-8043 福島県福島市中町1-25 コアホンダテナントC
TEL:050-8883-0533
営業時間:11:00〜18:00(パンがなくなり次第終了)
定休日:日曜日、月曜日
駐車場:なし

取材者の声

  • 氏名: 鈴木司(スズキツカサ)
  • 所属等: 株式会社日本政策金融公庫福島支店 国民生活事業融資課 課長代理

 野尻さんにはご相談当初から、気合の入った資料をご用意いただいていました。パンについても写真を撮影されて説明いただくなど、目指しているお店や事業の形がイメージしやすい計画だったと思います。
 これから創業を考えている方には、ご自身が考えてらっしゃる創業に具体的なイメージを持って相談先などに詳しく見てもらうことが重要でしょう。売上や利益についてはご自身が考えている計画を基に「現実的に達成できる水準か」を十分に検討していただく必要があると思います。
 創業計画は売上や必要な資金の計画が大きくなってしまうことが多いため、想定以上に手堅く設定した方がいいでしょう。難しいですが、その方が創業を実現しやすくなると思いますので意識してみてください。

株式会社日本政策金融公庫福島支店 国民生活事業融資課 課長代理 鈴木司

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