川内村の大島草太さんは、福島大学に通っていた2019年に川内村で事業を開始しました。当初は地元食材を使ったワッフルの製造販売に取り組み、キッチンカーも導入して各地のイベントに出店。2022年には摘果フルーツを活用した、フルーツハーブティーブランドも立ち上げました。さらに2024年11月にはクラフトジンの蒸留所を開設しています。そんな次々と新たな事業を展開していく大島さんに、川内村で創業した経緯、飲食業を選んだ理由、今後の目標などについて話を聞きました。

Q：学生時代に独立されたのですね。

　4年生時には田村市の地域おこし協力隊となり、そこでクラフトビールを手掛けるホップジャパン本間誠代表に出会います。事業を通したコミュニティーづくりに共感し、ワッフル製造販売との兼業で醸造士として働かせていただくことになりました。
　また2022年には地元農家からの相談をきっかけに、摘果リンゴを使ったフルーツハーブティー「TEA＆THINGS」を立ち上げて製造販売しています。
　2023年にはかわうちワイナリーの安達貴さんから、柑橘系ハーブが香る蒸留酒を紹介されて試飲。豊かな香りに驚くとともに、同じハーブ加工品でもお酒なら長く保存できることに気付かされました。さらに「県産素材による独自の香りを付加できれば原発事故イメージも覆せるのではないか」と考え、クラフトジンづくりに取り組み始めたのです。

Q：就職という道でなく、起業することを選んだのはなぜでしょうか。

　最初から起業以外考えていなかった訳ではありません。ワッフル販売を始めた後には、ホップジャパンに就職しています。
　そもそも大学時代は教職を目指して教員免許も取得していました。「教育から地域を変えていきたい」と考えていたものの、すでにワッフル販売を始めたことから教員採用試験を受けずに事業を継続。最初は小規模で始め、イベントなどにテント出店する形をとっていました。キッチンカー導入は開業後しばらく経ってからです。ほかにやりようがなくてスモールスタートしたのですが、結果的にそれがよかったのかもしれません。
　当時は川内村での就職も考えて地元の方に相談したのですが「村役場で働くかカフェでアルバイトするくらいかな」と言われ、選択肢が少ないことから断念。ワッフルを作りながら自分の思いを発信していけば「一緒に取り組んでくれる仲間も現れるだろう」と考え、事業を続けていこうと決めたのです。そういった中では本間代表ら協力者との出会いもありました。

Q：起業に当たって大変だったことは何でしょうか。

　事業を始める際、なかなか免許が下りなかったことが大変でした。1カ月遅れれば、それだけ収入が得られないので資金繰りも厳しくなります。
　事業計画の作成時も苦労しました。大枠は作れても細かいところを整えるのが難しかったのです。特に数字との兼ね合いが大変だったため、詳しい方に見ていただきながら内容を詰めていきました。
　資金面では福島県の創業補助金、中小企業庁の事業再構築補助金などが役立ちました。また子ども未来支援財団のHAMADOORIフェニックスプロジェクトに採用されたことが蒸留所開設につながったほか、クラウドファンディングでも資金調達を行っています。
　ただ協力者という面では、必要なときに必要なスキルを持った方に恵まれました。現在は社内スタッフ2名、業務委託先4名という態勢ですが、何か困ったときには周囲に声を掛けまくっています。そうすることで、いろんな分野に長けた方に助けていただけるのです。

Q：今後の事業展開で、考えていることがあれば教えてください。

　蒸留所の2階には、ジンと一緒に地元ならではの料理も味わえるレストランバーを作ろうと考えています。飲めない方でも一緒に楽しめるよう、ノンアルコールの提供も検討中です。まずは生産態勢整備が急務なので、オープンするのは早くても2025年6月ごろになるかと考えています。
　また川内村で気兼ねなく飲んでいただくには、宿泊できる設備も必要です。村内にもいくつか宿泊施設があるものの、埋まってしまったりシングル用が多かったりするので家族連れにも対応できる規模の物を考えています。イメージとしては一棟貸しやゲストハウスのような形でしょうか。この蒸留所を軸に、川内村へ人々がやって来るような仕組みを構築できればと思います。