理想の道を自分で拓く
プライベートナース・結い 円谷京子さん
看護師を早期に退職し、それから大学院に通ってMBA(経営学修士)を取得した円谷さん。自らが「やり残したこと」と話す新規事業に取り組み始めています。
経歴からは意志の強い鋼のような女性を想像したのですが、実際に会った円谷さんはご自身が理想とする看護の実現に向かってたおやかに進む魅力的な女性でした。
Q:まずは円谷さんのプロフィールを教えてください。
高校を卒業し、白河厚生総合病院の付属看護学院に入学しました。進路の動機はそんなにはっきりしたものではないんですが、母親から「看護師だと将来離婚しても女手ひとつで子どもを育てられるよ!」と、まだ結婚もしていないのに言われて。「まあそんなものか」と看護学校で3年間勉強し、看護師の資格を取りました。
それから33年間ずっと看護師ひと筋でした。2020年に「選択定年退職制」に該当することになったので、それから起業に向けてスタートしたという感じです。

Q:ずっと看護師の仕事を続けていた中で、いきなり起業することに不安はありませんでしたか?
私が勤めていた病院は地域のガン治療拠点です。しかしすべての方が治癒する訳ではなく、中には終末期の患者さんもいらっしゃいます。終末期の患者さんと関わる中で「人生の最期の時間をもっと大事に、有意義に過ごすために何かできないか」と考えるようになりました。
看護師として病院に勤務する中で「このままこの病院に勤めていていいのか?私の生き方としてそれでいいのか?やり残したことはないのか!?」という思いがどんどん強くなってきたんです。しかしながら病院で看護師をしている時間は、まさに「忙殺」されてしまいます。息をつく間もないほど、次から次へと仕事が入ってくるんです。そういった状況から、病院を離れることで自分のやり残したことに取り組めるのではないかと考えるようになりました。
とはいえ私は生まれてこれまで看護師しか経験したことがなく、どうしたらいいかを考えて通信制の大学院でMBA(経営学修士)を取得したんです。
このときも最初からこうしようと思ったわけではなく「大学院に落ちたら退職せず、そのまま病院で看護師として仕事しよう」などと考えていたのがよかったのかもしれません。仕事にも取り組みながら、2年間ほどがんばりました。

Q:円谷さんの事業の核心に入ってきましたが、事業の特徴について教えてください。
終末期の患者さんはある意味、いつどうなるか分かりません。その日まで普通に過ごせていた方が、翌日急変することもあります。
だからこそ1日1日を大切に過ごしていただくこと、きょうできることに取り組んでいただくことが大切です。例えば外泊の際に看護師が付き添えたら、ご本人も家族も心強いのではないでしょうか。家族旅行についても同じことが言えます。諦めていた家族旅行でも、看護師が同行することで実現できるのではないかと思うんです。
看護師が付き添うことでご本人や家族の願いがかない、最期の時間をもっと有意義に過ごすことができるのではないか…そういった思いが私の事業の原点となっています。

Q:大学院を終えて起業したのですか?
はい。「とにかくやろう!」と思っていたので走り出しました。でもお金がありませんし、不安だらけだったんです。
それで福島県の「地域課題解決型起業支援補助金」に応募しました。これは採択されると補助金がいただけるだけでなく、起業サポーターに付いていただいて一緒に伴走支援も受けられる制度なんです。ここでも「落ちたら専業主婦やるか…通ったら起業だ!」と考えていました。
事業経験がなかったので、大学院ではよく新規事業に関わる講義を受けていました。でも私の考えていた事業は県内になかったので、参考になる数字や事例などもありません。先生からも「そういったデータ検証が不十分だ」という指摘を受けていたんです。
そんな状況だったので、とにかくスモールスタートが鉄則でした。スタートして事業の感触を確かめていき、現場の手ごたえをフィードバック。事業プランを修正して再びトライしていく…起業したばかりのころはその繰り返しでした。

Q:起業してからの事業はどういった感じでしょうか?
利用を希望される方との初回事前相談は、特にキッチリ行っています。私たちもまた、人対人という関係性です。思い違いや考え違いがあったまま始めてしまうと、後々それが大きなズレになってしまいます。そのため、この点については事前に事業説明を行い、同意書兼ご契約書を交わしてから仕事に入らせていただくようにしています。
事業を開始した2022年の利用は2件でしたが、2023年は75件まで増えました。2024年は8月までで124件の利用があります。年々「確実に世の中で求められている事業だ」と自覚できるようになってきました。中でも、高齢者の医療機関受診時の同行が増加しています。地域包括ケアセンターや居宅介護支援事業所からのご紹介が多く、介護支援機関との連携も大切にしていきたいと考えています。
新しい事業はまず中身を知っていただき、そのうえで利用していただく方との信頼を大事にしていくことが欠かせません。それが次の利用に結び付き、リピーターも増えていくのだと思います。
Q:起業する前に「やっておけばよかったかな」と思うことはありますか?
地域医療の現状や地域内の介護の状況、在宅医療の状況などについて「もう少し把握しておけばよかったかな」と思いますね。幸いにも起業したからこそ、そういった内容を調べられたんだと思います。チャンスに恵まれたことはラッキーでした。
Q:最後にこれから起業する方へ、ひと言お願いします。
大切なのは「自分が取り組む仕事は、自分が本当に情熱を持って大事にできる仕事なのか?地域に貢献できるのか?!」という点だと思います。そこがあやふやだと続かないかもしれません。自分の中でよくよく振り返って、どうするか決めてほしいと思います。
あともうひとつ。「家族の理解は大事」です!
プライベートナース・結い
住所:福島県西白河郡矢吹町明新中55
電話:090-2889-8788
- ホームページ: https://private-nurse-yui.jp/
- お問い合わせ: https://private-nurse-yui.jp/contact/

取材者の声
- お話をうかがって、円谷さんは「事業経験が少ない起業希望者にとって理想の起業過程を選択している」と感じました。起業経験のない方は当然ながら、自分の経験や過去の感覚などに頼れません。
そのため、まずはきちんとした仮説を立てることが必要です。それを大学院でミッチリ実践したことが、しっかりした事業プランを立てることにつながったのだと感じます。
さらに「小さく始めた」ことも重要です。仮説はあくまで仮説ですから、それを現場で確認することが正しいかどうかの的確な判断につながります。ここを端折って最初から大きな投資などを行うと、仮説がズレていたときに修正できません。
そのうえで現場で起こったことをフィードバックし、最初の仮説を修正していくことが大切なのです。これはまさに理想の起業者の歩みだと言えるでしょう。
「起業してみたいけど失敗が怖い」と思う方は、ぜひ円谷さんの手法を参考にしてください。
それともうひとつ。いい仕事をしてお客様との信頼関係を大事にしていくことも欠かせません。スモールビジネスでは大掛かりな広告なども打てませんから、いい仕事をすることが次の自分の仕事を創っていくことにつながります。事業の継続や発展には、そういった流れこそが大切なのです。
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