霧幻峡(むげんきょう)で90分間の異世界体験
アクティビティ奥会津 金澤次郎さん

 令和6年度も魅力的な「先輩創業者の声」をご紹介してまいります。
 2011年7月の豪雨災害で、一部区間が不通となっていた奥会津エリアを運行している「只見線」。2022年10月に全線再開通となり、観光シーズンには大勢の観光客が訪れています。
 沿線の観光スポットの中でも、夏の朝夕や雨上がりの只見川に霧が発生することで見ることができる「霧幻峡」は、幻想的な景色で有名です。
 そんな霧幻峡で「カヤック」のツアーを提供しているのは、令和5年度に創業した金澤さんです。
 現地に伺って、その魅力や思いをお聞きしました。

Q:まずは金澤さんのプロフィールを教えてください。

 1972年生まれ。出身は東白川郡の塙町です。塙町の大自然のなかで山遊び、川遊びをして育ちました。
 地元の高校を卒業したあとは、当時隣の矢祭町に工場建設を予定していた業界国内トップの部品製造企業に入社しました。入社時はまだ矢祭町に工場がなかったため埼玉県の草加工場で働き、数年後、矢祭工場が稼働となったため実家に戻り、数年間、矢祭工場で勤務しました。
 私は4人兄弟の2番目で2歳年上の兄がおり、兄は大学卒業後、東京で就職していましたが、ゆくゆくは両親の面倒を見ることになっていたので、それまでは実家の近くで就職しようと決めていました。兄が実家に帰ってくる見通しがついた時に家を飛び出して、あちこちでバイトを転々とする生活が始まりました。

 私が高校を卒業した頃は、スキー第二ブームもありスキーにハマり、先輩や仲間と週末はスキー場に通っていました。この頃は、急激な円高で海外旅行が格安で行ける時代でしたので、20代前半はスキー仲間と海外スキーツアーに出かけたり、学校関係のスキー教室でインストラクターもしていました。
 20代後半から30代前半までは、福島市にて筋ジストロフィー患者会の会長から「建築設備設計事務所で電気設備図面を手伝ってほしい」とお願いされたので、建築に関わる電気設計をしながら、患者会の手伝いもしていました。幸い、工業高校電気科を卒業していることと、最初に就職した会社で電気設備部門所属だったこともあり、技術的な素養はありました。

実際に使用しているカヤック
Q:なかなかカヤックが出て来ませんね。

 ここからですね(笑)。福島市での生活をやめてカナダスタイルの障がい者スキーインストラクターを学ぶため、2007年から2010年までカナダのウィスラーにあるCSBA(カナディアン・スポーツ・ビジネス・アカデミー)に3年間留学しました。
 冬は障がい者スキーを学びながら、カナダの大自然でのバックカントリーやヘリスキーなどを経験し、冬以外の季節には、障がい者スポーツのハンドバイク、トレッキング、カヤックなどをボランティアでお手伝いしていました。その時にカヤックと出会い、障がい者の方々と数十キロのリバーカヤックを体験したほか、CSBAのアウトドアプログラムとしてバンクーバーアイランド内で1週間キャンプしながらのシーカヤックトリップなどを楽しみました。

 また、留学中には2010年バンクーバーオリンピック・パラリンピックも開催されています。ウィスラーもアルペンスキーを中心に会場となっており、オリンピック・パラリンピックを肌で感じながら留学生活を過ごし、その年の4月末に帰国しました。
 帰国後は、留学中に出会った全日本障がい者アルペンスキーチームの国内トレーニングサポートスタッフとして、長野県菅平高原で活動しているときに東日本大震災が起き、1週後に国内で1番大きな障がい者スキー大会が開催中止となったため、全日本障がい者アルペンスキーチームとの関係も終わってしまいました。
 この先どうしようかと考えた時に、以前から存在は知っていた栃木県さくら市にあるKAERU Adventure(カエルアドベンチャー)で働きながらカヤックを学びました。この時にビジネスベースとして初めてカヤックに関わりを持ちました。
 その後もいろんな地域での生活を経験し、福島市飯坂温泉で地域活性化活動に取り組んでいるNPO法人いいざかサポーターズクラブでは、茂庭ダムで開催していた「もにわっ湖カヤックツアー」を常時開催できるように構築し、ツアーリーダーとして5年間携わりました。この経験がカヤックツアーのノウハウ習得に繋がりました。
 この頃から「今までの経験を生かして体験アクティビティを提供する企業を作りたい」と思うようになりました。いいざかサポーターズクラブは退職しましたが、今でも理事として関わっています。

大自然の中でのカヤック体験
Q:いよいよ起業ですか。

 退職した2020年は新型コロナウイルスと重なったこともあり、すぐには動けませんでした。まずは起業の前に地域での生活基盤を整えなければならないと考え、前職での経験から地域活性化につながる仕事に就きたいと考えました。
 2021年4月に父が亡くなったこともあって、できれば実家にすぐに帰れる会津地方で活動したいと地域おこし協力隊へ応募していましたが、なかなかご縁をいただけず移住者向けのポータルサイトで地域探しの日々でした。
 そんな中で「奥会津かねやま副業共同組合」特定地域づくり事業協同組合の求人を見つけて応募し、2021年6月に金山町に移住して7月より奥会津かねやま副業共同組合で働き始めました。

金山町の霧幻峡
Q:今、移住も注目されていますが、なぜ金山町だったんでしょうか。

 金山町には以前から福島県障がい者スキー協会の活動で町内のスキー場に来ていました。冬季の雪の多さも知っていましたし、地元の方々の温かさも感じていました。
 また、私が移住先に求めていた「冬は雪が降りスキー場があること」と「カヤックができる可能性」という条件が揃っていたことです。
 就職先の奥会津かねやま副業共同組合も、地域の企業で働く担い手を求める一方で、金山町内にて新規起業する方も応援していただける仕組みだったことも魅力でした。
 そして只見線や霧幻峡などの観光スポットに、コロナ前は国内外から多くの方々が来られていて、今後全面開通する只見線に更に観光客が訪れるのではないか。体験アクティビティのカヤックツアーは観光客の滞在時間を延ばすことで町への経済効果も生まれるのではないかと考え、金山町の移住を決めました。

Q:それまで、この霧幻峡でカヤックをしたことは?

 それがないんです(笑)。でも金山町を訪れた時に見た、雄大な只見川や沼沢湖で「私が思い描くカヤックツアーが開催ができるのでは」との直感はありました。移住して間もなく、今の場所からカヤックで只見川に漕ぎだしてみたところ、雄大な奥会津の大自然パノラマを水面より堪能できたんです。五感で自然を感じられたことが「カヤックツアーができる!」との確信に変わりました。
 この場所は300年間の歴史を紡ぐ三更集落がかつて存在していた地域で、その集落の移動手段として和船が利用されていました。それを地元の方々が「霧幻峡の渡し」という観光和船ツアーとして提供しています。そういった地元の方々と共存していくことで、カヤックツアーも可能ではないかと思っていました。

Q:始めるまで、もしくは始めてから失敗などはありましたか?

 失敗ではないですが、2023年のゴールデンウイークにカヤックツアーを開始する予定で、福島県内のテレビ局も事前に取材に来て放映日も決まっていましたが、私が直前に急病で倒れて救急車で会津若松市内の病院に搬送され、手術、入院することになりました。そのためテレビ放映も中止になり、昨シーズンのカヤックツアー開始は2ケ月後の7月からとなりました。
 しかしながら、30組約80数名の参加があり、奥会津をカヤックで堪能できたことで、ほぼ100%のお客様に満足いただけました。開催エリアとして正に理想の場所でしたので、これも失敗ではなかったですね。
 昨年の申込先はホームページと電話受付のみでしたので、今年はいろんなアクティビティ申込ポータルサイトに情報を出していこうと思っています。

季節と共に移りゆく景色も楽しめる
Q:これから、どんな展開をしていきたいですか?

 カヤック事業は土日や連休などを中心に、拡大していきたいと思っています。なんといっても、このロケーションが最大の財産なので、地域の方々と一緒に霧幻峡を大事にしながら地域を盛り上げていきたいと思います。
 それとは別に平日に展開しようと始めた事業に、2万個の「楽つみ木」を使った、楽つみ木ワークショップがあります。このワークショップは、子どもたちの生きる力を引き出すことや、学生や大人のチームビルディングやグループワークトレーニングなどにも活用していただける素材です。このワークショップなどを出前形式で子育て施設や教育関係、企業、イベントなどで展開できればと思います。

Q:最後にこれから起業する人に一言お願いします。

 やりたいことがあるならば、思い続けることは大事だと思います。どうすればできるかを考えながら、ぜひともやりたいことにチャレンジしてください。
 起業は大変なことも多いですが、最終的には楽しいと、私は思うので恐れずにトライしてください。

アクティビティ奥会津

住所:福島県大沼郡金山町大栗山雨沼2587-2
電話:090-3363-2230

取材者の声

  •  スポーツはまるでダメな私ですが、なんと成り行きで「人生初カヤック体験」を楽しんでしまいました。
     「川の中で自分が行きたい方向に行ける」という体験は、手漕ぎのボートでクルクル回って進めなかった私にとって夢のような時間です。結果として、とても楽しい90分を過ごせました。
     今回は起業した、金澤さんお一人の記事となっていますが、実際の事業は奥様がご一緒とのこと。一緒にカヤックに乗って補助したり、岸で待機してサポートしたり、記念の写真撮影を行ったりと、ご夫婦で二人三脚の起業であることが大きな特徴だと思います。とても幸せそうなお二人でした。

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