なければ創る 理想の訪問看護を実現したい
かかりつけ訪問看護リハビリステーション nanairo(なないろ)
村岡百恵さん

 2022年の11月、取材者宛に村岡さんから突然「起業を考えていますが、独学なため知識を得たいと思い連絡しました。お時間はありますでしょうか?」という内容のメールが届きました。
 村岡さんが起業して行いたいことは「訪問看護」。高度な法規制などもあり、会社を設立するには時間の掛かる分野です。目の前に現れた若い女性には難しいのではないか?というのが正直な感想でした。
 しかし、そこからわずか3カ月で会社を設立して事業に着手されました。会社設立から2カ月で訪問看護をスタートしたという驚きの女性起業家である村岡さんに、お話を伺いました。

Q:まずは村岡さんのプロフィールを教えてください。

 昭和の終わりごろに猪苗代町で生まれました。親の影響で3歳からアルペンスキーを始め、県の強化選手にも選ばれるような子ども時代を過ごしていました。でも実は寒いところが大の苦手で、冬が来るのが嫌でした。
 母が看護師で夜勤も多く、小さいころは寂しかった記憶があります。ですから、絶対に看護師にはならない!と思っていました。

Q:それなのに、どうして訪問看護の仕事をしようと思ったのですか。

 子どものころはお菓子作りが好きで、パティシエもいいなと思っていました。
 でも、高校進学のときに看護科がある高校を選択しました。看護師としてバリバリ働いている母に悩みながらも憧れていたのだと思います。
 それに「看護師の仕事は職がなくなることはないよ」というキラーワードに背中を押されたことも理由のひとつです。

Q:そこからは順風満帆に看護師の道に進まれたのでしょうか。

 ジレンマや悩みは多かったと思います。高校ではクラスに数人しか男子がいないため、ほぼ女子の学校でした。課題の過酷さや実習の厳しさ、人間関係など、特に女子が多いからこその出来事も多く、また現場とのギャップもあって途中で辞めた人も多かったです。
 私の性格上、女子の群れが苦手で、集団が好きな方からの標的にされやすかったことも悩みのひとつでした。そういった、いざこざや「女性ゆえの」みたいなのがすごく面倒で嫌だったんです。ですから、うちの会社では「他人の悪口を言ったら解雇!お互いを大切に。たとえ意見の相違があってもその人を責めない」という社風となっています。

Q:でも資格をきちんと取得して就職したんですよね。

 福島市内の病院に就職して、最初は脳外科を担当しました。
 入職後、結婚~出産~3カ月で復帰となり、そこからは仕事と育児の両立に悩む日々でした。
 出産後、復帰した病院がちょうど診療科目を増やしているところで、病棟の立ち上げにも関わることが多かったです。心臓カテーテル検査の担当や、救急外来についても学ばせていただき、仕事は充実していて楽しかったです。
 でも帰宅時間は遅くなることが多く、託児所の迎えの時刻を過ぎることも度々ありました。夫も自分の仕事が忙しく、今よりはまだ女性が育児をするのが当たり前みたいなところもあり、子どもの迎えに間に合わないこともありました。託児所の先生がご厚意で子どもを自宅に連れて帰ってくれることも多々あり、あのときは迷惑を掛けていることに心苦しく、子どもにも申し訳ない気持ちがありました。

可愛らしい案内看板
Q:進退極まった感じですね。

 そこで仕事と育児の両立を図るべく、24時間託児所が完備されたところに転職しました。
 しかし、転職した先でも長所と短所がありました。24時間託児してくれるというのが前提になり、朝は8時前に病棟に行って就業前から仕事を始めたり、夜は急な入院や1日のルーティン業務が終わってからベッド調整を行ったりするなど、子どもの迎えは19時前後やそれより遅くなることもありました。
 集中治療室に在籍していましたが、オペ室、心臓カテーテル室兼務になり、夜勤も2交代で週に1〜2回ありました。子どもが小さいときは熱を出しやすいのですが、他の人の負担になってしまうので休みにくかったです。さらに実家にも頼れず、休みたいと言いにくくて辛くなる日々でした。
 看護師としての仕事はとても楽しいのですが、家庭との両立が難しいという矛盾に気付いたのもこのころです。今はだいぶ変ったかもしれませんが、周囲の方を見ていると看護の職場はまだ子育ての両立が大変な職場なのだと感じます。

 そんな思いもあり、うちの職場では家庭が第一という姿勢になっています。家庭が充実してこそ、仕事にいい状態で打ち込めると考えています。子どもが小さいときはあっという間なので、子どもの成長を見守ることができ、授業参観や学校行事にも参加できる会社でありたいですね。スタッフみんなで支え合い、働ける人が働けるときにしっかり働く・・・そんな会社を作っていきたいと思っています。

ステーション理念につながるロゴ
Q:気が付いて変わるときですね。

 ずっとこの仕事をしていると、慣れっこになってしまうのかもしれませんが、考えだすと腑に落ちないことがたくさんあるのです。
 看護職って人を看護、癒せる仕事なのに、精神的に参ってしまって病む人も多いんです。職場でも仕事の内容だけではなく、人間関係で辞める人も多い印象です。
 そして本来、患者様とゆっくり話をして看護したいのに、その時間がない。淡々と業務をこなすだけになっているのです。
 立ち止まると自己犠牲も多くなるという状況に「自分のことを大切にできないのに、他の人のことを大切にできる訳がない」と思ったんです。
 これらの経験や出来事が「在宅看護」に関心を持つきっかけになりました。

おしゃれでリラックスできる事務所
Q:いよいよ起業に向かいますか。

 訪問看護に従事したことで、病院とはまったく違う概念や利用者様との関わり、責任があることが分かりました。大変なこともあるけれど、本当に人と人の関わりの素晴らしさを教えていただいたとも思います。
 しかし、その一方で不満を感じていたことも事実です。仕事は楽しいけれど、足並みがそろわず、利用者様からの要望が届かない。マッサージひとつで個人差があり、勉強会も余計なことになってしまうような職場の雰囲気。したい看護が行えず、余計なことをしていると思われるだけ。「もっとこうしてほしい」に対応ができず悩む日々。そんな思いを何となくノートに書き溜めていたんです。
 退職を考えたときには、何カ所か再就職の面接に行ったのですが、先々で「どうして自分で訪問看護事業所を設立しないの?」と言われました。それで「ああ、そういう方法もあるのかな」と気付いた形ですね。
 そこで訪問看護に従事してから、書き溜めてきたノートを見返してみたんです。そこには女性ゆえのジレンマもあり、自分のやりたい看護ができなかった数年間の思いが書きつづられていました。それが今の会社の土台になっています。

 また私自身、カウンセラーの資格を持っているため、スタッフ1人1人のカウンセリングを行って、心が疲れないように、自己肯定感を上げられるように取り組んできました。
 また、スタッフさんのやりたい看護を応援し、自分に自信を持って仕事に取り組めるように、資格取得に関しては会社負担で全額支援しています。
 ときどき「そんなの理想だよ」などと言われることもありますが、理想の職場を求めて何が悪いのか?とも思います。私は、看護に関する今までの固定観念を壊すつもりでこの仕事に取り組んでいるのです。

大場議員のFM番組へ出演
Q:しかし、決意してわずか数カ月で会社設立から事業スタートまで・・・頑張りましたね。

 自分で勉強は進めていました。でも独学だとやはり不安なので、福島駅西口インキュベートルームに連絡してドキドキしながらパソコン持参で訪問しました。自分の考えをまとめたパワーポイントを見ていただき、「いい感じじゃないですか。やりましょう!」と言ってもらえたので、そこからスタートした形です。
 あのときに真剣に話を聞いてくださった、少しおっとりしているのに何だか気のいいマネージャーさんには感謝してもし切れません。その後はアドバイスをいただきながら事業計画などの準備を進め、あれこれと親身に教えていただきました。また、日本政策金融公庫さんにも大変お世話になり、とても親身に対応してくださったご担当者様には感謝しかありません。
 立ち上げの際には、開設前に以前からお世話になっていたケアマネジャー様にごあいさつに伺いました。また、激励や福島市の介護、医療の現状やアドバイスを下さる先輩にはオープン前から訪問看護をご依頼いただき、オープン当日から訪問開始させていただけました。

 とても博識でリアルヒーローだと思う師匠に加え、県議会議員の大場先生にはラジオに出していただいています。
 やりたいことのひとつだった地域連携や地域の方とも関われているほか、福島市在宅医療介護連携支援センター(在タッチ)で主催されている医師の先生と専門職連携の地域講座の講師の依頼やその他にも講師業をご依頼いただいたりと、本当にたくさんの方に支えていただいた1年だったと思います。
 訪問看護は責任も大きく、大変なこともありますが、それを上回る人と人とのつながりの素晴らしさが感じられる仕事です。人生の先輩と関わらせていただくことが多く、その機会を通じて自分たちの心や人生観が豊かになっていくとも感じられます。
 現在の私は、経営、管理者業務、訪問業務などに幅広く取り組む立場です。確かにオーバーワークではありますが、やりたい看護に取り組めていることはとてもありがたい状況だと思います。

Q:振り返ってみて起業前にやっておけばよかったことってありますか。

 経営の勉強をもう少しやっておけばよかったかなと思います。

Q:最後にこれから起業する人に一言お願いします。

 人生は一度切りで、予行演習なんてものはありません。自分のしたいことや思いを叶えられるのは自分だけです。自分も他人も大切にしながら、一度の人生、楽しく生きた人の勝ちかなって思います。

かかりつけ訪問看護リハビリステーション nanairo(なないろ)

住所:福島県福島市松山町55‐1ファミール松山A303
定休日:日曜日
営業時間:8:30~17:30
電話:024-572-6566
FAX:024-572-6422

取材者の声

  •  「少しおっとりしているのに何だか気のいいマネージャー」です。取材した村岡さんは、ここに書き切れないくらいのアクシデントを克服した方です。見事に短期間で起業されて、人気や評判も抜群で、素晴らしい限りです。
     また営まれているnanairoも「子育て応援!授業参観などへの参加は問題なくOK」「社用車を貸与するので、看護先への直出、自宅への直帰OK」と、どこまでもスタッフ側に立った会社となっています。
     「幸せの循環ができる職場にする」という村岡さんの言葉が記憶に残る取材となりました。

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