思いを風のように乗せて
ケのハレ 古川仁子さん

 郡山市は県内でも変化の激しい街です。常に新しいお店ができたり、道路が通ったりしています。
 でもお店がある堂前は時間がゆっくり流れているのを感じるような場所です。そんな堂前に2022年の秋、焼き菓子屋さんがオープンしました。
 その名も「ケのハレ」。いったいどんなお店なのか、古川さんに起業までのいきさつなどについて、お話をうかがいました。

Q:まずは古川さんのプロフィールを教えてください。

 1977年生まれ。郡山市で生まれて、福島市で小学3年生まで育ちました。その後は、父が公務員だったこともあり、原町市(現南相馬市)~郡山市~須賀川市と県内を転々としました。
 子どもの頃はゲームが大好きな少女でした。母が料理好きな人で、パンを焼いたり、お菓子を作ったりしてくれました。それを手伝ったのがこの仕事の原点ですかね。

落ち着いた店内空間
Q:いつ頃からお菓子屋さんになろうと思ったのですか。

 高校進学のタイミングで、ふと「渡仏してパティシエになろう」と考えたのですが、親には「ひとまず高校や大学まで進学した方が良い」と言われたので、渡仏はひとまず諦めました。
 大学卒業の時期が就職氷河期の真っ最中で、いわゆるフリーランスでした。その頃は音楽をやっていたんですが、さすがにこれで生活していくのは無理があるかな?と現実を見つめだしたのが大学卒業して1年くらい経った頃です。そこからお菓子の道に進むと決めるわけですから、普通の人から見ると5~6年遅いスタートになりました。

ひとつひとつ丁寧につくられるお菓子
Q:どのような勉強をしたのですか。

 働きながら学ばなくてはいけない状況だったので、夜間の製菓学校に通おうと思っていました。当時は神奈川県の藤沢市に住んでいて、学校に通いながら鵠沼のお菓子屋さんでバイトをしようかなと考えたんです。お店に行ったらそこの社長から「学校なんか行かないで、働いた方がいいよ。お金もらいながら勉強したら?」と言われました。今、考えるといい具合に丸め込まれた気がします。
 結局そこのお店に就職したのですが、とにかく給与が安くて食べて行けないと感じるようになりました。半年ほどで辞めようと決意したのですが、そこのシェフが違う店を紹介してくださり、そこである程度の給与と仕事に出会えました。
 そこの先輩は「売れていないお店を繁盛店にする」みたいな、再生請負人みたいな仕事もしていたので、先輩に付いて何か所も回りました。

Q:そこからは順風満帆ですか。

 そんなことはありません。数年前にもお菓子屋さんの労働実態が社会問題にもなりましたが、生活が100%仕事という状況なんです。さらに昔からの縦社会という状況もあって、疲れてしまいました。
 そこで、職場に1週間ほど休みをもらってフランス旅行に行ったわけです。そこで「フランスで働きたい!」と決心して、日本に帰って働いてお金を貯め始めました。貯めたお金を持ってフランスで研修を始めたのが27歳の時です。

Q:すごい行動力というか、目標を持った時の強さというか。

 多くのパティシエがやっている事なので、たいしたことではありません。修行先と決めたところはブルターニュで、職場はフランス人のみでした。フランス語が全然分からないまま行きました。
 最初はお菓子も作っているパン屋。その後がチョコレート屋。そこである種カルチャーショックを受けたんです。厳しい日本の店で働いてきたので、フランスの職人の歌を歌いながら仕事をしている姿に驚きました。
 しかも、作ったものがびっくりするくらいに美味しいんです。もう「何じゃこりゃ!」ってなるわけですよ。まあ考えてみればその土地で採れた新鮮なもので、その土地に合ったものを作っているわけだから、美味しいのは当たり前なのですが。

Q:この後もてんこ盛りですか。

 1年ほど研修というか仕事していて楽しかったのですが、さすがに親から「何やってんだ!帰ってこい!」って連絡がきました。自分も「このままずっとフランスにいたいのか?日本に帰りたいのか?」とすごく悩んだのですが、30歳手前で日本に帰ることを決断しました。
 帰ってきてからは千葉にあるチョコレート工場で働き始めました。そこの新商品開発室みたいなところで働いていたんですが、なんか物足りないんですよね。
 私は「仕事していないと死んでしまう。それもある程度の目標がある仕事じゃないとダメ。」というマグロのような体質なんです。
 なので、東京の某高級ブランドのレストランでパティシエとして働くことにしました。待遇的に考えれば一番良い職場で、その頃結婚して子どもが産まれたのですが、仕事と両立ができるよう配慮してくれました。
 ただ、新型コロナがきっかけで今後の人生について考える時間ができたこともあり、結果的に郡山市に戻ってきたんです。
 戻ってきてからもカフェで働いたりしたんですが、何か違うんですよね。
 それで「こりゃもう自分で店をやるしかないかな?」となって2022年11月にこの店をオープンさせました。

お客様のご要望でパンも販売
Q:開業して1年と少しですが、売上やお客様の反応はいかがですか。

 まあ、ビジネスとしてやっていける、続けていけるくらいにはなっています。自分の店なんで大変は大変ですが、やり甲斐はありますね。

お店の外観は以前までの店舗をそのまま使用
Q:どうしてもお店の名前と看板が一致しないのが気になりますが。

 私、あんまり派手なのは好みじゃないんです。焼き菓子も色はほぼ茶色だし。
 なんとなくこの看板の文字、可愛くて良いじゃないですか。変えるなんて考えませんでした。

Q:今思えば起業前にやっておけば良かったことってありますか。

 地域の特性や地元の人々の好みをもっとリサーチして、郡山近辺にある他店の商品ラインナップや価格もしっかりリサーチしておけば良かったと思います。

Q:最後にこれから起業する人に一言お願いします。

 自分で勝手につまずいて、勝手に転んでも、自分で自分を励ましながら前を向いて歩くしかないと思います。強い精神力を持ってください。

ケのハレ

住所:福島県郡山市堂前町18-2
定休日:月曜日・日曜日・他に不定休あり
営業時間:11:00~17:30
(営業時間・定休日は変更となる場合がございます。インスタグラムでご確認ください)

取材者の声

  •  お店がお休みの日に訪ねたのですが、ご本人は仕込みに余念がない中での取材になりました。まさにマグロのように働き続ける方で、仕事をせずには居られない感じです。
     店名は「ケ(日常)の中で食べることでハレ(特別)な瞬間を感じていただきたい」という思いから付けたそうです。
     自分を大事にして、その時々の自分の思いを、自身が創り出すものに乗せて魅せていく。そしてその強さと同時に、世の変化を感じながらしなやかに自身も変化していく。そんな「風」のような生き方を感じさせてくれる起業者でした。

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