調理師、結婚、再就職を経て得た新たなキャリア
5年掛けて資格を取り、土地家屋調査士として独立
赤城裕美土地家屋調査士事務所 代表 赤城裕美さん

調理師という経歴を持つ、土地家屋調査士の赤城裕美さん

 会津若松市の赤城裕美さんは、2023年4月に土地家屋調査士事務所を開設しました。もともと調理師だったという赤城さんは、退職、結婚、出産、再就職を経て38歳のときに「土地家屋調査士を目指そう!」と一念発起。そこから司法書士事務所で働きつつ実務習得と試験勉強を続けてきたのです。そして2021年には、晴れて合格率10%という難関資格を取得。会津地方で初めてとなる女性土地家屋調査士となりました。
 今回はそんな赤城さんに資格取得後に独立開業を決めた経緯、開業時の苦労や役立ったこと、新たなキャリアとして難関資格を目指した理由などについて質問しました。お話をうかがううちに、周囲の人々とのつながりを大切にする姿勢が見えてきました。

Q:まずは土地家屋調査士を目指したきっかけについて教えてください。

 2023年4月、地元の会津若松市に赤城裕美土地家屋調査士事務所を開業しました。土地家屋調査士を知るきっかけとなったのが、以前働いていた福島地方法務局若松支局です。2009年から2年弱、臨時職員として勤務し、土地家屋調査士が作成した図面をコンピューター化するための作業を担当させていただきました。ここで言うコンピューター化とは、いわゆるデジタルデータ化を意味します。
 調査士の仕事は、土地建物の調査や測量を行い、不動産の表示に関する登記の申請手続を代理で行うことです。調査士を目指そうと考えたのは「測量して図面を作って、それが永久に保存されるって、なんて凄い仕事なんだろう!自分も土地家屋調査士になりたい!」という思いが湧き上がったからです。
 しかし、調査士になるには資格試験に合格することが必要で、それは合格率10%ほどという難関だったんです。

あい事務所や石川事務所での経験を生かして働く赤城さん
Q:資格試験に臨む際は、何か対策を立てられたのでしょうか。

 資格取得に当たってアドバイスいただいたのが、市内にある司法書士法人あい事務所の田中裕志先生でした。あい事務所はグループに土地家屋調査士部門もあったことから、面識もないのに電話で「働かせていただきたいです」とお願いしてみたんです。
 いま振り返っても、なんて図々しいお願いをしたんだろうと思います。田中先生からは当時「お子さんを3人育てながら仕事をして試験勉強するのは茨の道だよ。難しいんじゃないかな」と言われましたが、私は何年掛かるか分からなくても「やります!」との決意を表明しました。田中先生にもご理解いただき、司法書士補助者として働かせていただきながら資格試験に挑む日々が始まりました。
 調査士と司法書士は別な職種ですが、協力して同じ案件に取り組むことも少なくありません。司法書士補助者として働かせていただいたことは、調査士としてとても貴重な経験となっています。

Q:試験に挑戦し始めてから、どのくらいで合格できたのでしょうか。

 2017年から毎年受験していたものの、なかなか合格にはいたりませんでした。そこで2021年には事務所を辞め、退路を断つことに。背水の陣で臨んだ5回目の挑戦で、遂に合格を果たせたんです。受験中にはコロナ禍もあり、気が滅入って勉強がおろそかになってしまった時期もありました。
 合格後には、猪苗代町の土地家屋調査士石川征義事務所へ弟子入りさせていただきました。石川事務所はあい事務所のグループでもあるため「合格したら石川先生に弟子入りさせていただく」という夢が叶いました。しかし、石川先生の下で実務経験を積みながらも、まだまだ子育て中という状況もあって「独立した方が働きやすいかも」との考えに帰着。個人事務所を開業しようと、その準備を始めることになりました。私はひとつのことに時間を掛けて取り組むタイプなので、自分のペースで仕事に取り組める今の働き方が合っていると思います。

試験勉強、子育て、独立開業の苦労も明るく話す赤城さん
Q:起業に当たって大変だったことがあれば教えてください。

 大変だったということではないのですが、土地家屋調査士には女性が少ないので「自分に務まるだろうか」「自分にお仕事依頼が来るのだろうか」と不安を感じていました。ちなみに私は会津地方で初めての女性調査士なのだそうです。県内では現在、私を含めて4名の女性調査士が活動中。中通りや浜通りの女性調査士の先輩方には、初対面時にも歓迎していただきました!
 また子育てや家事などの都合もあっただけに、事業主として独立した方がよかった面もあります。特に時間を融通できる点は大きいです。図面作成などの仕事は、子どもたちが寝た後に進めることもあります。調査士に限りませんが、女性が働くなら独立した方が活動しやすいかもしれません。
 加えて、試験勉強中も開業後も夫が家のことをサポートしてくれたことが大きいですね。家事にも育児にも積極的に取り組んでくれるタイプなので随分助けられています。

Q:逆に起業に当たって役立ったことはありましたか。

 資格取得後のセミナーが役立ちました。東北ブロックの合格者なので仙台市のガイダンスに参加したところ、その席で大御所の先生に「合格率10%の試験に受かったからといって調子に乗らないように!」と一喝されたんです。それで浮つくことなく学ぶ姿勢を保てたのだと思います。その先生からは経営できなくなって廃業された方の話、実務経験もないまま合格後すぐに開業したのでなかなか仕事がなく奥様に随分貧乏させてしまった話、辛くて調査士を3回辞めようと思った話、開業して数十年常に勉強し続けている話などをうかがい、調査士としての教訓にさせていただきました。
 また独立前には自分で創業計画書を作成しています。開業するには測量機器も必要ですが、最先端の物だと700万円も掛かることに。しかし、周囲から「開業時には無駄遣いしないように」と言われていたため、中古品を購入するなどして身の丈に合った借入にとどめるよう心掛けました。

屋外での測量業務では機材運びや杭打ちなどの力仕事も発生
Q:起業してよかったことは何でしょうか。

 5月に知らない番号から電話があり、建物の登記を依頼されたんです。なぜ私にお電話をくださったのかお聞きしたところ「ネットで調査士さんの名簿を見たら一番下にあったのが赤城さんの名前でした。最近登録されたんですよね?これから頑張る方にお願いしたいと思いまして」とのこと。新人の私を応援しようとご連絡くださったのです!その方は登記後もご親戚の建物の取り壊しでお声掛けいただくなど、リピーターになっていただきました。そうやって人とのつながりが広がっていくと、うれしさを感じます。
 とはいえ開業直後は仕事もほぼ入ってこない状態。当時は石川事務所からご紹介いただく案件を中心に対応していました。調査士の大先輩方からも多々アドバイスをいただきながら対応するうち、少しずつ仕事も増えて最近はなかなか忙しい状態になりました。売上はまだまだですが、目の前のことに一生懸命取り組むことで口コミが広がっていけばと考えています。

Q:詳しい業務内容や仕事のやり甲斐について教えてください。

 主な対応エリアは会津地方一円です。打ち合わせ時などはスーツですが、普段は屋外作業にも対応するので動きやすい服装で働いています。
 現場での調査や測量では石川事務所にもお手伝いいただき、ノウハウを吸収しながら取り組んできました。杭打ちなどの力仕事もあり、ときには山に登ることも。スキー場の測量時には、草深い山地を歩き回ってヘトヘトになりました。石川事務所、公庫さん、そして調査士の先輩方には多方面からサポートしていただき、感謝の思いでいっぱいです。
 関係各所に支えられて取り組めている調査士業務ですが、その面白さは探偵のように真実へ迫っていく点にあります。土地の境界がよく分からないといったご相談に、登記簿などを調べたり聞き込みしたりして真相を突き止めていくんです。無事対応できた後に「ありがとう」のお言葉をいただけた際は、本当にうれしくなりますね!

赤城裕美土地家屋調査士事務所

住所:福島県会津若松市中央三丁目2番9-1005号
完全訪問制
TEL:090-6458-1012
FAX:0242-24-8551
問い合わせ:akagi2304@outlook.jp

取材者の声

  • 氏名: 小林望(コバヤシノゾミ)
  • 所属等: 株式会社日本政策金融公庫会津若松支店国民生活事業融資課上席課長代理

 赤城代表は、創業前と創業後で大きく印象が変わったと感じます。創業前はあい事務所に飛び込んで実務知識を身に付けるなど行動力の凄さに驚きましたが、創業後は人とのつながりが広がって人間的にも成長されたようです。これも赤城代表が出会いを大切にしながら活動されていたからではないかと思いました。
 また身の丈に合った借入を心掛ける点も、創業者には大切です。創業直後は過去の知識や経験がないため、安易にコストを掛けてしまいがち。機材や出店場所にこだわりすぎるより、実績を重ねて少しずつ事業を大きくしていく姿勢が重要ではないかと思います。

株式会社日本政策金融公庫会津若松支店国民生活事業融資課上席課長代理 小林望さん

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