自分スタイル。でも本流。
珈琲焙煎所ぼうし 坪井敦さん

起業して7年目の坪井さん

 2023年1月に開催されたふくしまベンチャーアワードで特別賞を受賞した「珈琲焙煎所ぼうし」の坪井さん。
 飄々とした人柄の中にキラッと光る筋の通ったビジネスモデルがありました。
 普通に珈琲豆を販売しているように見えて、かなり強かな構想がベースにあります。
 例えば「カフェ」などを始めようかと軽く考えている方はぜひ一度、坪井さんの着想力、構想力を学んでみてください。

Q:まずは坪井さんのプロフィールを教えてください。

 1978年生まれ。福島県いわき市出身で、小さい時は消極的でおとなしい子供だったと思います。
福島高専への進学は、いま考えてみると、その頃から自己責任での自立を意識していたのかもしれません。卒業後は地元の設計会社に就職しましたが、仕事について興味が膨らむことがなく3年ほどで退職しました。
 その後は3年間ほど無職でしたが、26歳の頃に再度、就職活動をして「どうせなら好きな事を」とパチンコ店へ就職しました。パチンコ店へ就職する時には3年で管理職になり、管理職で3年やったら自分で何かを始めようと考えていました。
 実際に就職した後では2年で管理職になって、その後10年弱ほど勤める事になりましたが、震災後に色々あって、会社を辞めることになったので起業となったわけです。

一杯ずつ丁寧なドリップで提供されるこだわりのコーヒー
Q:最初からコーヒーの仕事をしようと思っていたのですか。

 コーヒー店を始めることに決めたのは、仕事を辞めてからです。何をしようかと思った時に次の3つの縛りで選びました。
 1つ目は「今後最低でも10年はそれで生きて行ける」こと。これは必須条件です。
 2つ目は「自分がその領域で武器を持っている」こと。ゼロから始めるのではなくて、即戦力で戦えないと続けていくのが厳しいからです。
 そして3つ目は「自分が好きである」こと。せっかく自分で起業するわけだから、好きなことをやろうと思いました。コーヒー自体は学生の頃から好きだったので、30代になると自宅で自家焙煎をしていました。

こだわりの豆をこだわりの焙煎で
Q:ここはいわき市でも「植田」というかなり南の場所ですが、この場所で起業した理由はありますか。

 場所はあまりこだわっていなかったのですが、駐車場は欲しかったので、湯本・泉・平地区などの物件を色々と見てまわりました。ただ、家賃・駐車場・広さと中々折り合いが付かず、たまたま植田の物件を見てイメージが沸いたぐらいです。強いて言えば「市内初のコーヒースタンドがなぜ植田?」と話題になるかもしれないと思ったことが、この場所で起業した理由ですかね。
 あとは、基本的にシンプルなオペレーションにしたかったので、一人でまわせるこの場所に決めました。

様々なイベントへ出店することも
Q:ネットで「珈琲焙煎所ぼうし」と検索すると、「持続可能社会」や「SDGs」のキーワードが出てくるのですが、坪井さんの世界観を教えていただけますか。

 これは、単純です。コーヒーが好き、楽しい事が好き、身の丈で自分も周りも楽しい方がいい。なので、自分の出来る範囲内のサステナブルで、美味しくて、楽しく、価値観の共有ができる仲間と一緒に出来ればいいなと思っています。
 楽しいが最優先で、そこをビジネスとしても出来ればHappyみたいな感じです。
 なので、大きくSDGsや環境問題がどうとかでは正直ないのですが「自分の無理なく出来る範囲でやれることをやろうかな〜、それで色々な人が楽しくなればいいな」ぐらいの浅い考えです。

Q:今、考えてみて「起業する前にこれをしておけば良かった」というようなことはありますか。

 起業時は考えられる準備はしたかなと思います。その頃に何かをやっとけばという事はあったとは思いますが今は思い出せないですね。精一杯はやっていたと思います。
 できるならば学生の時から起業したかったですね。若い時からやっていたら、もっと面白かったかもと思います。

Q:最後にこれから起業する人に一言お願いします。

 私は「楽しく」やっていると多くの方に思ってもらっていると思います。実際に好きな事で楽しく働いています。
 でも本音を言えば、楽しいのは一部分でほとんどは楽しくないです。楽しいのために楽しくない事を、手を抜かず時間をかけて楽しいを自分で作る努力をしています。自分は何者でもない凡人と自分自身を理解して行動しています。
 なので、起業のキラキラした所ばかりに目を向けず、足下と周りを見ながら起業したほうが良いかもしれないです。

珈琲焙煎所ぼうし

住所:福島県いわき市植田町中央1丁目16-4
営業時間:13:00~21:30(L.O.21:00)、日曜日は12:00~17:00
定休日:イベント出展時等不定休
TEL:0246-88-9388

取材者の声

  •  伺う前のイメージでは「コーヒー豆も売っているお洒落なカフェ」というイメージでした。でも店内では飲食なしで、「コーヒー豆類の販売」と「コーヒーのテイクアウト」のみ。以前はカウンターでも飲めたそうですが、コロナが蔓延した時に完全に撤去したそうです。
     それだけにコーヒーに懸けるところはスゴいものがあると感じました。坪井さんは一見、飄々として捉えどころがないように見えますが、「この方法で生き残るには少なくとも日本のトップクラスの豆を売らなければならない」と言い切る姿にはプロとしての誇りに裏打ちされています。
     「持続可能社会もSDGsも将来的に当たり前になる。そうなった時に最初からそれを言っていたところと、ニワカで言い出したところは格段に差が出る」。ニコニコ笑顔の底には、実は深い読みがあるという起業家でした。

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