「地域おこし協力隊」から地域おこしの主役へ
一凛の花株式会社 代表 紺野琴水(こんのことみ)さん

 2020年に「地域おこし協力隊(*)」として、いわき市の山間部である田人町に入り、わずか3年。単身乗り込んだ若い女性は会社を設立して、地域の施設を経営し、更に事業を拡大中。協力隊から主役へ大躍進の秘密はどこにあるのか?

Q:まずは紺野さんのプロフィールを教えてください。

 1997年、神奈川県川崎市に生まれて高校までそこで育ちました。いわき市に関わったのは母の実家がいわき市平にあったのがそもそもです。子どもの頃からよく遊びに来ていて、お祖母ちゃん子だったこともあり、自分の中では特別な場所でした。

地域に根ざしたカフェと、地域の子どもたちの学びの場
Q:近年「地域おこし協力隊」で地域に入る人は多いですが、その経緯を教えてください。

 当時、私は航空会社で成田空港のグランドスタッフに就いていたのですが、2019年からの新型コロナ感染症で一気にリモートワークに切り替わったんです。それが自分と世の中の関係を見直すきっかけになりました。
 そこでネットで協力隊の募集を見つけて応募したという流れです。協力隊の募集内容は基本的には過疎地での業務になります。しかもいわき市の場合、ミッションが定められている場合や募集内容が農業などが多くありました、しかし、田人町は少し変わっていて「SNSでの情報発信」や「地域が運営していた宿泊施設の誘客」だったので、これなら自分の今までやってきたことが活かせるかな、と思い応募しました。
 2020年の11月から協力隊で入って、2023年の3月に卒業しました。今は「一凛の花株式会社」を4月に設立して代表に就任し、古民家カフェ「HITO-TABI」の運営を行っています。

古民家カフェ「HITO-TABI」
Q:協力隊卒業ですぐに会社を設立。それでカフェを運営って凄くないですか?地域に入って3年足らずですよね?

 このHITO-TABIは以前からありました。私の前任の地域おこし協力隊と地域の方が地域の課題解決のために設立しました。そのあとに協力隊として着任した私が運営に携わるようになり、経営のあり方やコンセプトを根本から見直して地域の方と協力して実践していきました。「ここでやっていきたい」とこの町が私を後押ししてくれました。今は「一凛の花株式会社」が運営を行っています。

田人町の農家さんが販売する新鮮な野菜
Q:この事業で叶えたいことはなんですか?

 このカフェのコンセプトは「地産地消」なんです。米も野菜も田人町のものを使っています。この辺の地域も少子高齢化が加速度的に進んでいて、このままだと地域がなくなってしまう。それを止めること、地域を残すことがこの事業の最終目標です。
 なので、若い方に交流人口として、たくさんこの地域に来てもらうためにカフェでは季節のスイーツフェアなどを仕掛けています。
 更に9月にはゲストハウスをオープン予定です。地域に興味を示す人には地域に積極的に入ってもらって地域と関わってもらい、中には移住して来る人も出てくる。そんなベースキャンプになれば良いと思っています。
 関係人口を増やし、雇用を生んでこの地域で暮らしていけるようにする。HITO-TABIでもパートさん含めて4名の女性を雇用しています。皆さんが地域の方です。大事な事だと思うのですが、女性の働く場のある地域は残っていけると思っています。

田人町産の米粉を使ったワッフル
Q:そこまで田人町に思いを入れる理由は何ですか?

 これはこの地域に関わらないとわからないと思いますが、この地域には都会に住む人達が忘れてしまった「人としての温かさ」が純粋な形で残っています。何かあれば、あるいは何も無くても手を差し伸べる関係がこの地域を創っています。
 自分もそれにどれだけ助けられたかわかりません。

Q:失礼かもしれませんが、成田空港の華やかな場所で仕事をしていた紺野さんが、どうして今の道を選んだのでしょうか?

 私、こう見えて結構、挫折の多い人生なんです。高校卒業後に受験した滑り止めの大学には行かず、高みを目指して浪人。一年後の受験はまさかの全落ち。夢を追いかけ、専門学校に進学しました。
 就職先は航空関係と決めていたので、自分と向き合い就活に臨みました。しかし、なぎ倒されるように失敗。29社目で憧れの会社にご縁を頂きました。
 そうなると家族関係もうまくいかなくなります。自分の中でも一寸先が見えない状態でとても不安でした。
 そんな時に海外のゲストハウスなどを巡ると、さまざまな価値観がある。それで随分と気が楽になりました。自分の足で歩いて行こうと決めたきっかけはそこだったと思います。
 その上で母の実家でもあるいわき市で「何かやる」とはずっと心に秘めていました。私にとってはそこが安心して居られる場所でした。
 なので、今回オープンするゲストハウスは「ただいまと帰ってこられる地域との繋がりの宿」がコンセプトです。田人町の良さは地域と繋がらないとわかり難いですから、田人町を素のままで体験できる場所にしたいです。

Q:最後にこれから起業する人に一言お願いします。

 これは社名を説明することになりますが、「一凛の花」というのは、人それぞれが持っている才能を意味しています。それぞれの人がそれを咲かせることができる場所で咲いて欲しい。どんどん才能を伸ばして欲しい。その結果、その花が集まって花束になるのではないかと思います。
 人は皆、持っているものも経験も違う。人と比較せずに自分の中を見て咲かせることができる場所で咲いて欲しい。自分が生まれてきて「やりたい」ということを見つけて進んで欲しいと思います。

古民家カフェHITO-TABI(運営:一凛の花株式会社)

住所:福島県いわき市田人町黒田字唐沢35
定休日:月曜日・火曜日
営業時間:11:00~17:00
電話:070-2437-9633

代表の紺野さん

取材者の声

  •  「起業する前にやっておくべきこと」としてお聞きした内容が「人間関係を十分に構築すること」でした。地域に入って3年足らず。会社を立ち上げて、カフェを運営して、ゲストハウスも開設しようとしている今でも、経営は「無借金経営」だそうです。
     「起業前に沢山の人間関係を創ってきた。そのネットワークが私を応援してくれている。それは事業面でも資金面でも大変に有益だった。」というのがとても印象的でした。
     私も「起業者に取って一番大事な事は何か?」と訊かれた時には「時間を守ること」と答えています。「小さい約束事が守れない人が、大きな約束事(事業計画)を守れるはずがない。」これは金言だと思います。周りはあなたを本当によく見ています。
     そして紺野さんはそれを実践されています。

    *「地域おこし協力隊」=都市地域から人口減少や高齢化等の進行が著しい地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取り組みです。隊員を任命するのは各地方自治体であり、活動内容や条件、待遇は、募集自治体により様々です。任期は概ね1年以上、3年以内です。(総務省ホームページより)

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