小規模ビジネスにおける1つのオブジェクト指向
株式会社サードラボ 佐藤皓(サトウヒカル)さん
通常、事業(ビジネス)は「自分が〇〇を行う」という「何を行うのか?」がメインテーマとなります。しかし、時に「何を行うか?」ではなくて「誰に(どの層に)提供するか?」を優先事項と考える起業者の方がいらっしゃいます。このような起業者の方は、業界や世界が成熟してくるにつれて増加していると感じます。
「誰に(どの層に)提供するか?」をある程度推し進めると、「特定のユーザーに対しては、提供できる限り何でも対応する」というスタイルが生まれてきます。
Q:まずは佐藤さんのプロフィールを教えてください。
1985年生まれ。父の転勤先である静岡県で生まれ、記憶もない小さい頃に福島県に引っ越して来て、福島県で育ちました。自分で言うのもなんですが、大人しい子供でした。
高校で演劇部に入部したのが大きな転機ですね。音響や大道具などのスタッフのつもりで入部したのですが、なぜか出演することになりました。舞台に上がるのは恥ずかしいし、ドーラン(舞台化粧)を塗ったりするのが本当に嫌だったんですが、不思議なもので本番を経験したらハマってしまいました。
それが嵩じて、進路を考える時は「演劇を学べるところ」と思い神奈川県の専門学校へ進学しました。
卒業してからの数年は、実際に公演に出演したり、スタッフとして舞台に参加したりしました。その時期に、展示会のナレーションや地方公演ツアーのスタッフとして全国を回り、色んな人たちに会って色んな経験をしました。
Q:今の仕事とはかなりかけ離れた経験ですね?
そうですね。でも今の仕事の根っこの部分は、この時期の経験から生まれてます。
スケジュールに融通の利く仕事として誘われてやったのが「光ネット回線」の訪問販売。普通の人がインターネットを普通に使うようになって、それがより良いサービスへと切り替わる頃ですね。
成績は割と良かったので、新人教育とか社内のミーティングを担当していました。でも、訪問販売は続けたくないと思って、配置換えしてもらい、携帯電話ショップの専門アドバイザーとしてショップで働くことになったのですが、その会社から引き抜きを受けまして、迷った末に晴れて「正社員」となったのですが、これがなかなかハードなところでした。
ちょうどガラケーからスマホに切り替わる時期で、お客様は大勢いらっしゃいます。でも、そのクライアントに対応するシステムも環境も出来ていない。お客様は「スマホが初めての人」しかいませんから、スマホそのものの説明やプランの説明、使い方の説明など…そんなことしてると30分~1時間はあっという間にかかります。お客様が来店してから2~3時間待ちが常態化して、受付時間が過ぎても山のように待っているお客様が残っている。そうなれば深夜まで働かなければいけなくなる。もともと販売台数日本一を取るほど来店数の多いところでしたから、その最前線のスタッフの負担はなかなかのもので、倒れていく人も少なくありませんでした。
Q:そこから今のビジネスのヒントとは?
具体的な閃きはその後になるのですが、そういうハードな環境でもマネジメントすることで改善することができないか自分を試してみたいと思ったこと。一発勝負のプロの現場で働いて、ハードな環境での会社員も経験して、とりあえずこの先何があってもなんとかできるだろう、大概のことは耐えられそうだと思いました。後になって起業する時にここは活きましたね。
ただ身体への方が負担が大きかったのと、何か別のことをやりたいと思っていたこともあり、会社は辞めました。退職を機に環境も一新させたいと思い、神奈川県内での一人暮らしから、東京都内のシェアハウスへ引っ越して、新宿の職業訓練校でWebデザインの訓練を受けました。ウェブサイト制作に必要な知識やソフトの使い方を学ぶ中で、デザインについて関わるきっかけとなりました。
その時に住んでいたシェアハウスの住人がフランス人、アメリカ人、香港人や台湾人など多国籍な人たちで、そこで共通語として使われるのが英語だったんですね。その時まで日本語のみで不自由したことがなかった自分は「英語って本当に使うことがあるんだ」と衝撃を受けました。その後、英語の勉強をしたいと思いフィリピンのスパルタ英語学校に通ったり、韓国語の勉強のため韓国の大学の語学堂にも通いました。そうしたら、せっかく勉強したので実際に英語を使って働いたり生活してみたいと思い、ワーキングホリデーでオーストラリア~カナダと渡ってから福島県に戻ってきました。
戻ってきたら、たまたま英語を使える人の募集がありまして、そこで働くことになりました。
Q:まだ起業しませんね。
そこで働いていたときに感じたんですよ。仕事を発注するときに、「コレ」作りたいって言ったら、「コレ」しか出てこない。プロに外注するのって、素人にはわからない感覚とかを求めるところもあると思うんですよね。それに応えるのが「仕事」で、そのままやるのは「作業」なんじゃないかと。
それだったら自分が「作業ではない仕事を提案していけば、仕事を獲得できるのではないか。」と。そこで具体的に起業の考えに至ります。
それで働いていた場所を辞めたんですが、ちょうど辞めた時期にコロナが流行しはじめました。
Q:この時期に起業した方は多かれ少なかれ、必ずコロナの影響は受けていますね。
これから「さぁやるぞ」と意気込みたいのに、外に出ることさえはばかられて、はじめの一歩をどう踏み出そうかと考えていた時に「福島駅西口インキュベートルーム」の情報を見つけて、施設見学を申し込みました。
「安価に事務所を借りられたらいいな」くらいに思って行ったのですが、最初の起業相談からとても親身に話を聞いていただいて、期待以上でした。
インキュベート施設のソフトウエアとしての支援というのは目に見えないのでわかり難いですが、ここでいつでもインキュベーションマネージャーに相談できたのはとても大きかったです。
今のうちの商品は普通の会社紹介的に書けば「チラシやパンフレットなどのいわゆる紙物やWeb制作」「イベントの企画や運営」となりますが、先に書いた「作業ではなく仕事をする」ことを第一にしています。
というのも、クライアントは何故「チラシやパンフを作るのか?」なんですね。これは「A4のカッコいいチラシ」を作ることが本来の目的ではなくて、「世の中に自分の商品やサービスを知って欲しい」「自分たちについて知って欲しい」という要望なんですよね。なので、うちは単に言われた通りチラシやパンフの制作~納品ではなくて、どうやったらこのクライアントの売上が増やせるか?このクライアントが事業を行う目的は?目的達成のためにこのやり方(制作物)で良いのか?作ったものを見た人がクライアントにどういうイメージを持つと良いのか?という視点で仕事をしています。
そのためにヒアリングを重視していまして、制作の目的、ターゲットや伝えたいメッセージ、クライアントの特徴や顧客への想いなどを伺い、改めてクライアント像を具体的にイメージしていく中で、クライアント本人も気づいていなかった強みや打ち出すべき要素が見えてきたりします。
うちはデザイン事務所ですが、見た目や装飾を作るだけがデザインではなく、企画やサービスやシステムなどを考えることもデザインのひとつだと捉えています。結局、私たちの仕事はクライアントとその顧客のコミュニケーションをデザインすることなんですよね。ですから、クライアントとその顧客のためになると思われる提案はどんどんしますし、できることはなんでもします。
依頼内容によっては自分の所だけでは出来ないような大型の案件だったり、分野を跨いだような話もあります。そんな時もうちとしてはそれを一括で受けて、それぞれの分野で対応できる仲間とプロジェクトチームを組んで対応したりしています。
そうじゃないとクライアントの方でその切り分けをしなくてはいけなかったりしますし、仕事ではなく作業をするような会社が獲得して、目的も考えずに「(仕様書に)書いてある最低限のことだけやる」ことになってしまうので。
Q:今考えれば、起業前に勉強しておけば良かったとか、準備しておけばよかった、ということはありますか?
誰もがそうではないのかもしれないですが、私は単なる勉強だとモチベーションが上がらないんです。いずれすることになる仕事に必要とされるものとして見えてくることで学ぼうという意識も強く持てると思います。
やっておけば良かったという意味では、もっといろんなところに行っておけば良かったですね。国内でも海外でも、もっと色んなものを見たかった。提供する側、される側の目線で見れば、同じものを見ても見え方が違ってくると思いますので。
Q:今回、法人化を達成して「株式会社」となりますが、社長としてどんな会社にしたいですか?
「関わる人が幸せになれる会社」にしたいですね。あと、探究心を持って挑戦できるところにしたいです、一応「ラボ」なので。
Q:最後にこれから起業する人に一言お願いします。
本当にやってみたいことがあれば、やってみたほうが良いと思います。死ぬ間際に「あれやれば良かった..」って後悔しないように。今すぐにやらなければならないということはないと思いますが、「いつか自分がしたいことをする。今はその準備。」と考えられれば、普段の仕事の仕方も生活も変わると思います。
ただ、起業するかどうか迷っている人で、「背中を押してもらわないと進めない」という人は、起業はやめた方が良いと思います。自分の選択をして自分で責任をとる覚悟は必要だと思います。
株式会社サードラボ
住所:福島県福島市三河南町1-20 コラッセふくしま 6階
- ホームページ: https://third-lab.com/
- 問い合わせなど: 上記ホームページの「CONTACT」から御連絡ください。
取材者の声
- 社長の「サトウヒカル」さんとは常日頃同じ施設内で仕事をしていますが、仕事の時の佐藤社長と、オフで交流会等をする時の佐藤さんのギャップが楽しいです。佐藤さんが企画してくれる交流会はとても楽しく、施設の入居者は皆さん楽しみにしています。
インキュベートルームに入られてから、1つずつ着実に実績を積み上げて、今は後輩の起業者の皆さんの良き相談相手にもなっておられます。
起業された方が育ち、次の後輩に自身の経験値を伝えていくその姿は、創業支援施設のあるべき1つの形と感じています。
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