大手ができないことを水平展開
株式会社会津野菜 代表取締役 永井 洋彦さん
(ふくしまベンチャーアワード2019 ファイナリスト【8名】)

 最初にビジネスモデルを聞いた時は「単なる通販事業では?」と思ってしまいました。「単純に見える事業ほど、本質を掴むと強い」。核心を突いた事業モデルは、単純な中にも大手が真似できないシステムを組み込んでいました。

最初にプロフィールを教えてください。

 1977年(昭和52年)母の実家の喜多方市で生まれました。東京の府中で幼少期を過ごし、幼稚園からいわき市へ。その後、小学3年生の時に東京に戻り、大学から社会人を東京で過ごしました。3年前の2019年に父の実家のある西会津町奥川地区に移住し起業に至ります。

西会津のミネラル野菜
Q:いわゆる孫ターン(一世代飛ばしてUターン)ですね?移住で起業というのは、今ひとつの流行りにもなっていますが、どんな経緯なのですか?

 父が西会津で母が喜多方の出身なので、小さい頃にお盆や年末年始は結構、父方と母方の実家に来ていました。何気なく実家で作った野菜や米を食べていたので、それが野菜に触れる原体験ですね。
 東京に長くいたのですが、まあ野菜がまずいです。米も臭い。とにかく学校の給食がまずくて、周り友だちも給食嫌いが多かったです。
 これは私の思い込みではなく、東京で仕事をしていた時に「国語算数理科社会と農業を結び付けて考える教材」を作っていたことがあり、関連する教育機関に色んな人にヒアリング調査をした結果、都市部では給食嫌い率が突出して高いということが分かりました。
 どうしてスーパーで売っている野菜がダメなのか調べてみると、間違いなく鮮度なのです。今の東京だと農家が収穫してスーパーの棚に並ぶまで4~5日は掛かります。ここが一番の問題だと考えました。

おいしいお米と野菜のセット
Q:基本となるビジネスモデルを教えてください。

 学生時代の先輩がご当地野菜を通販でダイレクトに家庭に届ける事業をやっていて、そこを手伝いながらノウハウを吸収しました。その上で、私なりに会津地方に合う形にリモデルして展開する目途が立ったので、独立して起業し、今のビジネスを始めました。
 基本は「良い野菜を選んで、それを一早くお客様に届ける」というものです。朝採った野菜は翌日にはお客様の食卓に上ります。特に難しいものではないように思えるかもしれませんが、なかなか難しいものです。
 季節を考えていかないといけないですし、会津地方は特に冬場というはざかい期があります。一年を通して使ってもらえる商材を調達するのがなかなか大変です。逆を言えばそこが私の事業の「売り」でもある、農家と直につながり、季節に合わせた旬の野菜を提供できるということになります。

Q:始めて3年目ですが、現在はどんな状況ですか?

 比較的、計画通りに進んでいます。実は今年の10月から喜多方市、熱塩加納村のふるさと納税の返礼品に採択されました。西会津町では元々返礼品となっていたのですが、3市町村でというのはなかなかないらしく、これからが楽しみです。
 私がこの事業の強みと感じているのは、定期便を利用しているお客様からの解約が本当に少ないところです。定期便は商品の質を体感された方からすると届く楽しみを得られ、そのため既存顧客数は積み上がっています。やはり実際に食べて違いが分かれば、続けていただけます。

愛情たっぷり手塩にかけて育てた会津野菜
Q:食材を直接ユーザーに届けるという事業モデルは大手でも既に展開しているのでは?

 これが面白いのですが、形は似ていても商品が全く違うといいます。大手の場合は日本中、物によっては世界中から商品を集めますから、やはり一旦センターにモノを集めなければならないのです。そこから商品を組み合わせて、パッケージにして出荷しますから、スーパーの野菜と変わらない鮮度になってしまうのです。要は、お客様は「買い物に行かなくて良いだけ」なんです。商品はスーパーの野菜と変わらない。会津野菜の場合、収穫した日にパッキングして出荷するため、翌日にはお客様の手元に届きます。
 見た目は変わらなくても食べたら分かる。そこが、この「ご当地農産物直販」の肝心なところです。

まごころとともにお届けいたします
Q:これからの目標や夢はどんなものですか?

 個人的には江戸時代の城下町のような所がこのモデルには合っていると思っています。昔から野菜や米を作っていたところ。そういうところでの展開が〇〇野菜というネーミングにはしっくりくると思います。収穫できる農産物も質の高い物が多いです。また、その地域でしか収穫できない特殊な伝統野菜もあったりしますしね。
 このモデルを横展開したいですね。大手さんはセンターに集約してそこから一律の物を送りますが、こういった地域独自の販売モデルが横に手を組めば、今月は会津の野菜、来月は〇〇地域、その次は〇〇地域と、日本中の野菜を鮮度良くおいしく食べられるじゃないですか。
 そうなれば、収穫物の品種が少なくて1年間は廻せない地域でも、半年とか数か月とかで参加できる(他地域との組み合わせで定期便にする)、そんなネットワーク型のビジネスモデルを創っていきたいですね。皆さんが当たり前と思っているスーパーの野菜の味が本来の野菜の味ではなくて、鮮度の良い本物のおいしい野菜を食べてもらって野菜嫌いをなくしたいと思っています。

Q:最後にこれから起業する人に一言お願いします。

 私は前職で、農業や野菜に関して様々な人にヒアリングをすることができました。自分で言うのもなんですが、あらゆる角度から本当にいろいろな人に訊いて回りました。その結果として、今の自分の事業があるので、自分の事業には自信を持っています。事業をやる前に、その業界や商品についての徹底したリサーチやヒアリングはとても重要だと思います。
 そして、決めたらやることですね。私もコロナ禍で閉塞感もある中で、事業を開始するまではかなり迷いましたが、やると決めてからは迷いませんでした。
 それと、良い支援者に巡り会えることも大事だと思います。今までも行政をはじめ、多くの方にご支援を頂きましたが、福島県の創業支援施設であるの福島駅西口インキュベートルームはやはりダントツでした。必要な時に必要な情報を頂き、販売促進や実績作りなど、物凄く支援して頂きました。まだ知らない人は起業前に(起業した後でも)一度相談した方が良いと思います。

株式会社会津野菜

住所:福島県耶麻郡西会津町奥川豊島字下松2399
TEL:0241-49-2022
受付時間:9:00〜19:00
問い合わせ:下記ホームページの「お問い合わせ」から

代表取締役の永井洋彦さん

取材者の声

  •  私(取材者:新城)と永井さんは起業前からのお付き合いですが、当初の頃の線の細い感じが少しずつ薄くなってきて、肝の据わった経営者に育ってきているのを感じます。それも自分の事業がお客様に支持されて、売上や事業が拡大していることによるのだと思います。新しい横展開に、期待しています。

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