システム化する体育会系
aveic合同会社(SPECIALIZED福島/Loop Cycle)代表
阿部 洋祐さん
今回は、このシリーズ初めてのスポーツ系です。取材者の私は運動系はまったくの駄目。果たしてどうなるかと心配していましたが、先方は体育会系だけあって、パパっと取材日程を決めてくれました。運動音痴の私がスポーツ系の取材をするため、郡山市の方八町にあるSPECIALIZED福島/Loop Cycleさんにお伺いしました。
とてもお洒落な自転車屋さんです。
本日はありがとうございます。自転車屋さんですよね?
自転車屋なのですが、いわゆるスポーツバイクと言うジャンルの専門店です。趣味としてスポーツバイクを楽しむ方、通勤や通学で自転車を利用する方の来店が多いですね。一般の自転車と比べると、スピードや快適性などすべてが違います。自動車で言えば、スポーツカーみたいな感じですね!
Q:阿部さんが、このスポーツ自転車屋を開いた経緯などを教えてください。
1986年生まれの35歳。東京都出身です。子供の頃は野球少年で、中学と高校はラグビー部に所属。ラグビー部の監督が体育の先生で、その監督を見て自分も将来は体育の先生になろうという思いから、体育大学を受験しました。合格したのが仙台の大学だったので、仙台での生活が始まりました。
Q:そこでもラグビー専攻ですか?
そう思われがちですが、実は違います。自分は奨学金で大学へ行ったので、生活するにはアルバイトもしないといけない。自分で時間管理ができるスポーツじゃないと続けるのは難しいと思っていました。大学からの帰宅中に、たまたまトライアスロン部の自転車練習をみて、「これは面白そうだ!」と即決しました。それがスポーツ自転車との出会いです。
そこから4年間は、スポーツクラブで運動指導をしたり、夜は飲食店でバーテンダーをしながらお金を貯め、長期休暇には北海道~沖縄まで全国を旅するように色々なトライアスロンレースに出場しました。もちろん大学の勉強もしながらです。
Q:それで自転車屋を開いたのですか?
そう単純でもないです。自転車は好きでしたし、よく自転車屋さんにも顔を出していたのですが、どうも店主と波長が合わない。買い物をするのに凄く気を遣うし、メンテナンスをしてもらうのに自転車が汚れていると嫌な顔をされたり・・・自分も人を相手にするアルバイトをしていたので、もっと顧客満足みたいなことを考えればいいのにと漠然と感じました。だから自転車は好きなのに、自転車屋さんは嫌いだったんです。でも、当時のスポーツ自転車屋ってそれが普通で、他のお店に行ってもそんな感じでした。業界の常識は世の中の非常識ってやつですね。当時から「本当に良い自転車屋をやれば多くのお客様に支持されるのではないか」との思いがベースにあった気がします。
Q:もともと先生になりたかったのですよね?
いつの間にか目標が変わりました。当時、スポーツクラブでのアルバイト時給が780円。これではあまりにも「コスパが悪い」とクラブにお願いして、週に1回有料のランニングメニューを作らせてもらいました。『必ずマラソン大会で完走できるようにサポートします』というコンセプトで1レッスン500円。500円×人数は丸々給与になるけど、通常の時給は発生しない究極の出来高制です。コツコツと宣伝して、平均30人集まるようになると、週に2回、3回とレッスン数を増やしていきました。それに参加してくれる方が本当に楽しそうにランニングをしてくれて、皆さんレッスンを心待ちにしてくれたり、レッスンに参加するために仕事を早く切り上げて参加してくれたりと、どんどん良いコミュニティーとなって参加者のQOL(※)が上がっているのがよく分かりました。もちろん私のやり甲斐も大きかった。この経験から、学校の先生もいいけれど、自分にしかできないことや、得意な事を活かして、誰かに喜んでもらえるような仕事がしたいと思うようになりました。
(※)QOLとはクオリティ・オブ・ライフの略称で、「生活の質」や「人生の質」という意味。
Q:それで自転車業界に入ったのですね?
ちょうどウェルネス産業が注目され始めた時期で、好きなこと、得意なこと、これからの時代にマッチするだろうということを考えて自転車業界に入ろうと思い、卒業してから自転車の小売りで日本一大きい会社に入社したのです。でも10ケ月で辞めて、今度は首都圏でスポーツバイクを扱っているショップに入りました。そこは本気で顧客満足度の日本一を目指している会社で、当時では珍しい1ブランドの専門店(コンセプトストア)でした。顧客満足やサービスのクオリティーの勉強もたくさんして、多店舗化するためのマニュアル制作なども行いましたね。その会社はその頃2店舗だったのですが、今は首都圏で6店舗になっています。その会社にいたのが5~6年です。その後、また仙台に戻り、学生の頃一緒にトライアスロンをやっていた人が店をやりたいと言うので、そこで5~6年店舗の立ち上げや運営に携わりました。
Q:そして、いよいよ独立ですか?
そうですね。10年以上業界にいて、自分がやりたい店の構想も固まってきていました。とにかく顧客満足度を大切にして、初心者に優しく、スポーツ自転車を通じて『遊ぶ』『体験する』『学ぶ』『チャレンジする』『仲間ができる』をサポートするお店を創りたい。
ブランドは仙台でも扱っていたSPECIALIZED(スペシャライズド)というブランドの専門店で、店舗ならではのエクスペリエンス体験を提供する事にこだわりたいと考えました。
Q:郡山を選んだのはなぜですか?
自然豊かな東北が好きだというのはありますね。特に福島は猪苗代湖や磐梯吾妻スカイラインなど、自転車環境は国内随一ともいえる環境なのに、スポーツ自転車屋さんが非常に少ない。特に郡山はスポーツ自転車に乗っている人も極端に少なく感じました。まったく縁もゆかりもなかった地域ですが、スポーツ自転車の文化を作っていける楽しさがあるのではないかと考えました。実際にいろいろと調べる中で、全国の地域ごとの人口と自転車屋のバランスを数値化し、この地域ならばやっていけると確信しました。しかし、オープン前後には、「郡山にはスポーツ自転車の文化がないから流行らないよ。」と何人もの地元の方から言われましたが(笑)
Q:お店を開く時に心掛けたことはありますか?
ただ物を売る店舗にするのではなく、ライダーを中心とした「エコシステム」を展開したいと考えました。バイクを買うお店には親切なスタッフがいて、試乗体験ができる。バイクを買ったら不安に思うであろう、パンク修理や洗車の講習会がある。どこを走ったら良いのか分からない、仲間が欲しいと思う方にはグルメを楽しむライドイベントを開催する。チャレンジ精神や向上心を求める方のためにマウンテンバイクのレースを主催したり、トライアスロンスクールを運営しています。ライダーを中心に『購入』から『遊ぶ』までをきちんと提供したい。そのためには自店だけでなくメーカー、地域、民間、行政や賛同してくださる方々をどんどん巻き込んで、最高のライダージャーニーを提供できる環境を創り出そうと考えました。
Q:阿部さんが思うビジネスの秘訣はありますか?
できる限り、すべてをマニュアル化と数値化することです。自転車の組み立てやお店の運営については完全にマニュアル化することで、最も効率的でお客様に満足いただけるオペレーションを目指しています。マニュアルがあることで、ミスなく、無駄なく、スタッフによるクオリティの差が出ない店舗運営ができ、お話上手で感のよい優れたスタッフだけではなく、普通の人でも働ける環境を作り出せます。
さらに、4つの数値を大事にしています。1つはWebの閲覧数、次に来店者数、試乗者数、そしてお見積もりを出した数。この4つの数字から大体の売上が分かります。4つ中のどこのタッチポイントが上がっているか、また落ち込んでいるかで、これからどう動かなくてはならないかを探る指標になります。
Q:これから、どんな展開をしていきたいですか?
弊社のミッションは、どれだけ多くの方に優れたサービスを届けられるかだと思っています。そのためには別の店の出店の必要もあると考えていますし、もしかするとそれは自転車屋でない事業もありなのかもしれません。儲かるからというだけの理由ではなく、誰かのためになる、困っている方を助けるという『人として正しいマインド』があり、ビジネスとしても成り立つことをやっていきたいと考えています。
Q:これから起業する人に一言お願いします。
(やろうとしている事が)「世の中と社会のためになるか?人の役に立っているか?」は繰り返し考えると良いかなと思います。
それと、売上というのは顧客満足度の表れで、お客様から頂くお金はその会社に対しての未来への期待であり投資です。誤解しないで頂いたいのですが「稼げないけどやり甲斐のある仕事」ではなく、きちんとお金を頂ける(顧客満足を得られる)事業を目指した方が良いのではないかと考えています。事業(サービス)は継続して行けることがお客様にとっても重要な事ですからね。
あとは、一生懸命やることです。必死に正しいことをやり続ければ、必ず応援してくれる方がたくさん現れます。
Loop Cycle
住所:福島県郡山市方八町2-5-16
東北本線 郡山駅から徒歩5分/東北自動車道 郡山インターから車で15分
駐車場:4台有り
TEL:024-926-0826
営業時間:平日12時~19時30分時、土日祝12時~19時
定休日:水曜日・木曜日
取材者の声
- 私は古い人間なので、体育大出身の人というと、自分が最初に入った会社の実業団チームのイメージが刷り込まれているのです。効率とか性能対価格比とかはあまり考えずまず行動するイメージです。そう思い恐る恐る伺ったんですが、トンデモナイ。
物事を精緻に観察し、そこから普遍的な法則を導き出し、それを現実の事業に応用していくという、今の時代に必要な科学的システムを習得された素晴らしい起業家でした。
私の拙い文章では全然伝わらないのですが、これから事業を行いたいと思う方は是非お話を聞かれたらとても勉強になる先輩起業家と感じました。
「で、この自転車、幾らするのですか?エッ!40万円~!!!!100万円超えるのも珍しくないんですか・・・。」
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