「震災からの復活 そして地域の再生 地域を愛する社会起業家」
株式会社コヤギファーム 三本松 貴志さん

コヤギファームの農場

南相馬市小高区にある株式会社コヤギファームは、ワイン用のブドウを栽培し、ワインを製造して販売する会社です。小高区は2011年の東日本大震災で全地域避難となり「人口がゼロ」になった町です。そこで、目指していた酪農家の夢を絶たれた男が、人生を賭けて2019年に立ち上げた会社です。
昨年(2021年)、初めてのワインを出荷、販売し、実質的なスタートを切りました。事業への夢と地域への愛に溢れた起業者です。

栽培されたワイン用のブドウ
Q:三本松さんの生い立ちや事業を始めた経緯などを教えてください。

1973年、南相馬市小高区生まれ。地元の農業高校から北海道の大学に進学しで酪農を学びました。元々、このブドウを作っている土地で父が酪農をやっていました。私もいずれ後を継ぐつもりで社会経験も積んで、2011年の1月1日から代替わりを宣言して、自分が酪農業を引き受けたのです。
それからわずか1ヶ月半で、私の夢が砕け散るとは思いませんでした。東日本大震災に遭い一家で南会津町に避難。同年秋に妻や子供を南会津に残して単身帰還しました。
とても酪農を再開できる状態ではない(当時、小高区は立ち入り禁止)ので、市内のNPOで放射線測定を行ったり、地域の田畑の維持管理をしたりと、地域と密接に関わりながら、復活できる時を待っていたのです。

Q:震災後はかなりご苦労されたのですね。

この地域の人は皆さん多かれ少なかれつらい目に遭っています。少なくとも一度は故郷を捨てる決断をしなければならなかったわけですから。家族とも別れて暮らす時期もありましたし。飼っていた牛のことを思えば今でも涙が流れます。
しかし、一番私にとって衝撃が大きかったのは、私の父が「もう酪農は無理だ」と独断で農業機械や機材を処分してしまったことです。これではもう酪農は再開できません。

アウトドアで楽しめるカジュアルワイン
Q:正直、ゼロからワイン造りを始めるのは相当な苦労だったと思いますが。

機械はなくなりましたが、この土地は残りました。ここを耕作放棄地にしたくないと思ったのです。周囲には強力なライバルが居ないこと、資金的に自分の中で対応が可能なこと、そんなことを考えながら何をしようか日々考えていました。
契機は、2016年に家族で山形県の高畠ワイナリーに行ったことです。地域がワイン製造で活気づく様を目の当たりにして「これをやろう!」と決めました。

そこからは、どう勉強するかを考えました。ブドウ造りは、隣の川内村でワイン用のブドウを栽培していることを知り、そこに通ってボランティアで手伝いながら勉強しました。また富岡町でもワイン用ブドウの栽培を始めたので、そこでも手伝いながら作業方法やワインに関する情報を得ました。
でも全部教えてもらえたわけではないので、例えば消毒に関しては独学でしたね。「こうじゃないかな」と思うとそれを業者に確認したりして。
本も買い込みました。ブドウの栽培の本を買い漁って、生食も醸造用もブドウには変わらないと思い栽培して性質を確かめたりしました。ブドウ栽培農家が配信しているYouTube、これが意外に分かりやすかったです。とにかくあらゆる方法を試したつもりです。

Q:これまで頑張ってきたことは?

頑張ってきたという感覚はないです。無我夢中でした。将来、今を思い出したときに「ああ、俺はあの時頑張っていたなあ」と思えたら、恐らく頑張っているのだと思います。
「今、俺は頑張っている」なんて思ったら自分に甘くなります。

作業中の三本松さん
Q:将来の夢を教えてください。

まずは醸造所ですね。今はまだ醸造は他所で加工してもらっています。これを自分のところでできるようにして初めて「ワイン製造」だと思います。また、当然ですが地域の雇用を創りたいですね。ここは自分が生まれ育った場所で、夢を断たれた場所でもあり、再び夢を立ち上げた場所でもあるので、将来100年後も残して行きたいです。
今は頼まれて近くの畑も耕しています。今年はそこでもブドウを作って生産量を増やすつもりです。ここは「小高区小屋木」という地域です。その地域の名前を会社名にしています。この地域を次の世代に伝えていきたいです。

製造販売されているワイン
Q:これから起業しようという人に一言お願いします。

「情報、経験、資金」これを大事にすべきだと思います。
情報は、業界の動向、トレンド、法律等、常に最新のものを吸収する必要があります。情報は金より価値があると思っています。経験は、対処法や時間的ロスの縮小やミスの軽減につながります。頼み込んででも経験は積むべきです。資金をしっかり調達し、最新機材を導入することで時短にもなります。専門家に助けを借りたりと一番必要になるところですね。

株式会社コヤギファーム

住所:福島県南相馬市小高区上根沢字堀込10
問い合わせ:0244-44-3388(畑に居る時は出られません)
営業時間:日中はほぼ畑に居ます(ホームページの問い合わせから連絡ください)

代表の三本松さん

取材者の声

  • 「気は優しくて力持ち」。そんな言葉がすぐに連想される大きな身体の三本松さん。周囲からは「三ちゃん、三ちゃん」と親しげに声を掛けてきます。その包容力の大きさで、この地域を将来に向けて持続可能な地域にしていくという夢に向かって走っています。
    「最初のブドウが実った時は嬉しかったのですが、翌朝行ってみたら何もない。害獣に食べられたかと思ったら、母親が勝手に収穫して食べていました。」と笑う三本松さんの人間的魅力が地域を再生させますよう、心から願います。