「ある時は起業者 ある時は支援者 自由自在なマルチプレイヤー」
合同会社はまから 阿部峻久(たかひさ)さん

店舗がある復興商店街浜風きらら

合同会社はまからは、いわき市の久之浜にある鮮魚の卸・小売り、魚関係の加工品の製造や販売を行う会社と聞いていました。しかし、実際に社長にお話をうかがうと、ボーダーレスで地域を盛り上げるためにやりたいことが次々に口から出てきます。「魚や海を切り口に地域を創造していく会社」というイメージで捉えることができました。

Q:最初に阿部さんのプロフィールなどを教えてください。

1982年宮城県石巻市生まれ。高校までを石巻で育ち、大学からいわき市へ。大学を出た今もいわき市に住んでいます。祖父が網地島で渡し船の船頭をやっていまして、父も船のエンジニアと、根っから海が傍にある家系に育ちました。
大学を出てすぐに起業したのですが、色々あって、結果的にいわき市の財団の仕事を手伝うようになりました。その後、市の産業支援機関が創設されるにあたってそちらで勤務することになりました。そこで創業支援に関わったのです。
ただ、私はもう1つ、地域のNPOでも活動をしていました。文化事業やアートプロジェクトの運営活動についても勤務の傍ら、ボランティアで行っていたという感じです。

接客する阿部さん
Q:阿部さんはなぜ?今ここで活動されているのですか?

2011年の東日本大震災以降は復旧・復興活動をしており、津波の被害ですべてなくなってしまったいわき市久之浜で、復興の花火をあげてほしいと相談があって、この地域との関りができたことがそもそものきっかけです。それ以降、復興のボランティアで久之浜に来た女性と地域の漁師さん、それと自分も関わって2018年に合同会社はまからを立ち上げました。
彼女は「漁師の担い手不足を解消するプロジェクト」を構想していて、私もそれをNPOの立場で手伝ったりしていたのですが、徐々に支援機関(いわき産学官ネットワーク協会)の仕事とNPOの活動の比重が変わってきたのです。そこで、ある時「これはどっちか1つに絞らないといけないかな」ということで支援機関を辞めました。その後、その女性や漁師さんが会社の運営から離れたことで私が「はまから」を担うようになったという経緯です。

Q:はまからではどういったことをされていますか?

そうですね。当初、水産業を軸とした担い手育成等の支援事業を想定していましたが、鮮魚店の運営・商品開発・鮮魚の卸事業をはじめ、市場で魚を仕入れる仲買人まですることに。また、現在は、スタート時点のメンバーから様変わりして、私を含め4名のスタッフで行っています。一人は市内の呑み屋のママさん。もう1人は元魚屋の親父さん。この2人はまったくもって昭和の人です。口は悪いが気持ちがストレート。オッカナイ両親みたいなものですね。もう1人はパートのお姉さん。でもこの3人は大事にしたいですね。絶対に事業を成功させて、良い目を見させてあげたいと思っています。

人気商品の「手焼き真穴子」
Q:期せずして経営者になったという感じかと思いましたが、自分で選択していますよね?

元々自分で起業しようと思っていましたからね。今は加工場を広げたいと思っています。このアナゴのかば焼きが、また人気なんですよ。でも取引先の大手小売店やバイヤーさんからは「もっと小さいパッケージにして欲しい。個食用(一人分)にして欲しい。」というようなオーダーが多く、そこまでやるには加工場を拡大しないといけないと思っています。そうしたら他のバイヤーさんにも提案や売り込みができますよね。

運営するマルシェの案内チラシ
Q:最後に、これから先を見据えて考えていらっしゃることがあるんですよね?

ええ。今度は、いわき市水産業の喫緊の課題でもある「漁師の担い手を育成する事業」もやるんですよ。県外の方を対象にもしているので、移住に向けた取り組みとして、移住促進施設「アートスタジオ弁天」をオープンする予定(いわき市久之浜に今春開設予定だったものの、現在は延期となり正式な時期は未定)です。小学生の魚の刺身体験から大学生のインターンまで受け入れますよ。
それまでに養殖事業を立ち上げたい。いわきの漁業を次の時代に残すためには絶対にやらなくちゃ。行政も前向きに考えてくれています。

合同会社はまから/直売所 鮮魚店 はま水

住所:福島県いわき市久之浜町久之浜字北町134 浜風きらら内
問い合わせ:080-5556-5417
営業時間:10:00~16:00 (火曜定休)

おさかなひろばはま水

取材者の声 (福島駅西口インキュベートルーム 統括マネージャー 新城榮一)

  • 本来は「支援者の声」のスペースなのですが、阿部さん自身が支援者でもあるので、取材した私新城が感じたことを書きます。
    阿部さんが市の産業支援施設にいた頃からの知り合いで、あの頃はスマートなサラリーマンのイメージだった阿部さんが、ガラッと変わって骨太い起業者になっていて驚きました。古いですが「ワイルド」です。
    取材中に阿部さんから「以前は事業をやったこともない自分が創業支援、しかも伴走支援をやって良いのか自信が無かったけど、今はそれなりの経験で裏打ちされてきたと思います。」という言葉が印象的でした。
    次の地域をデザインしつつ、それを実行に移している。支援者とプレイヤーを自由自在に行き来しているように感じました。
  • 参考:公益社団法人いわき産学官ネットワーク協会(以前、阿部さんが在籍していた産業支援機関) http://www.iwaki-sangakukan.com/

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