「普通に考えつきそうなビジネスモデルには周到な仕掛けがあった」
株式会社ケイリーパートナーズ 鷲谷 恭子さん
(2018年ふくしまベンチャーアワード優秀賞)

お客様へのヒアリング

2020年に郡山市に設立された株式会社ケイリーパートナーズ。
中心となって経営を行う鷲谷(わしや)さんは福島県郡山市生まれのUターン者。
早稲田大学政治経済学部政治学科卒。卒業後はJR東日本に就職、同僚の御主人との結婚、出産からの専業主婦、そして震災。様々な体験を通して生まれた女性のならではのきめ細かい心遣いに裏打ちされた起業への取り組みをお聞きしました。
なお、鷲谷さんは有名人で、生きて来られた体験や経験はネット上に多く出ておりますので、ここでは「一見すると誰でも思いつきそうなビジネスモデルをいかにして誰にもできない事業に進化させたか?」を中心に、ビジネスに関わる事柄を御紹介します。

子どもと一緒に出社
Q:基本となる事業を教えてください。

弊社は、企業の生産性向上のお手伝いと地域の女性活躍推進を両立させることを目的に事業展開しています。経理や営業事務といった中小企業のバックオフィス業務をアウトソーシング受託し、子育て真っ最中のママたちがワークシェアリングによって業務を担っています。メンバーの特性を活かして、消費者目線でのSNSマーケティングや主婦の経験値を活かした「企業整理収納 ※1」など、新しいサービスも生み出しています。
役員を含め全員が女性、そのほとんどが小学生以下の子どもを持つ母親ですので、「2時間から働ける」柔軟な勤務体系をはじめ、子連れで出勤できる職場環境やリモートワークの積極導入など、ママたちの働きやすさにこだわった制度設計をしています。また、キャリア支援として、ビジネスマナーの定着やスキルの向上を目的とした社内研修も充実させています。

※1 商材・什器・備品の整理収納、オフィスファイリング、アドバイス、メンテナンスを通して、業務の効率化を図り会社の利益に繋げる働き。

Q:失礼な申し上げ方ですが、それほど珍しいビジネスモデルではないように思えますが。

人材不足がより深刻になる時代背景の中、企業の生産性向上と、地域の女性活躍推進は、どちらも良く語られる課題ですよね。思いつく人はたくさんいらっしゃることと思います。
ただ、この両軸を、持続可能なビジネスの中で達成していくことは決してたやすいことではありません。日々汗をかきながら、地道な努力を重ねています。

弊社が受託する業務のほとんどは、お客様が初めて外注にチャレンジされる分野ですので、新しいアウトソーシングを軌道に乗せるためには、多くの手間が掛かります。
まずはお困りごとや目指す姿を丁寧にヒアリングし、弊社としてお役に立てる形の業務を切り出します。スタッフの適性や意欲を見極めたチームを編成し、業務に必要なスキルをセットします。リモートを基本にしていますので、データ共有や連絡ツールの整備も不可欠です。
また、チームで均質なワークシェアを行うために、細やかなマニュアルを弊社にて作成します。企業が内製で行っている段階では、マニュアルに則ってバックオフィス業務が行われているというケースは少ないんです。いわゆる経験則、暗黙知の中で動いている。それを受託するためには、業務を明確に可視化する必要があります。

お客様である企業側に対しては、継続してご依頼いただける「信頼」を担保しなければなりません。機密情報管理を徹底しながら、業務効率化の効果を感じていただける実績を重ねていくことが必要です。当初予定していたフリーランスのマッチングではなく、法人を設立してスタッフを直接雇用し法人として受託することもそれが大きな理由でした。

Q:細かい心配りが必要なのですね。仕事をして頂くスタッフはどうしているのですか?

令和元年の「2hours ※2」立ち上げの際に集まってくれたメンバーがほとんどです。これは「2時間で働こう」をキーメッセージとしたプロジェクトで、様々な役割と調和を図りながら自分らしく働きませんか?と呼びかけたところ、子育て真っ最中の女性から多くの熱い応募をいただきました。事業開始前で実績がないにもかかわらず、締切前に定員となったことで、「目指す方向は間違っていない」と背中を押してもらえたような気がしました。

弊社の価値は、スタッフがゼロスタートでスキルを磨き、1年半を経た今、生き生きとそれぞれの個性を活かし、お客様のお役に立てるワークシェアリングを実現しているということです。
「経験・資格・学歴等一切不問」は、「誰一人取り残さない」というSDGsを体現するために、起業する上で私が自身に設定した条件でした。私が心の支えにするリンカーンの言葉「意志あるところに道は開ける」を体現する場を作りたかったからです。

労働市場の人手不足がますます深刻さを増す中、コロナ禍で働き方が多様になった今でも、育児や介護、病気や障がいといった制約によって労働参加ができずにいる人々が社会にはたくさんいます。「労働力を必要とする企業と労働参加を望む人々が、何かを犠牲にしたり諦めたりすることなく結びつき、より良い未来のために想いを合わせて協働する。」弊社は、そのプラットフォームとして機能できるよう、しっかりと利益を出しながら持続可能な経営をしていきたいと思います。

※2 2019年5月に鷲谷さんが立ち上げ、後にジョイントベンチャーとして株式会社ケイリーパートナーズを設立。

スタッフとの写真_鷲谷恭子
Q:どうして起業に至ったのか?至った経緯について教えてください。

支援者の一般社団法人グロウイングクラウド 代表理事の三部香奈さんとの出会いは大きな転機となりました。
東日本大震災以降、子育て支援や国際交流のボランティアを通じて地域とつながってきましたが、三部さんにお誘いいただいたまちづくりの活動や、ビジネス講座に参加させていただいたことで、自分のキャリアに「起業」という新しい選択肢が生まれました。
「誰もが健康で、自分の人生を楽しみながら、調和の取れた働き方で地域とつながっている未来」を目指して、ビジネスモデルを作り上げる時間は、試行錯誤も楽しく、純粋にワクワクしていました。その時期に「ふくしまベンチャーアワード」や「郡山地域クラウド交流会」といった機会に恵まれ、起業準備が一気に加速度を上げたように思います。想いを語り、共感を得られた経験は、自分にとって大きな支えとなりました。
三部さんとは株式会社ケイリーパートナーズの共同創業者でもあります。役員三名、それぞれにまったく異なるキャリアを活かしあいながら、経営にあたっています。

定期的に開催する社内研修
Q:郡山にUターン移住して来られたわけですが、これはどうしてですか?

私は郡山出身で主人は秋田の出身です。第一子出産後、しばらく東京で生活していましたが、私たち夫婦にとって子育てをする場所は東京ではありませんでした。郡山か秋田かの二択だったのですが、夫の主な勤務地である東京からのアクセスを考え、郡山に決めました。2009年、上の子が幼稚園に入園するタイミングに合わせてのUターンです。

Q:母であり妻であり起業家ですが、御家族はどのように思われてますか?

思い出すのは「ふくしまベンチャーアワード2018」最終審査当日のこと。受賞後の懇親会にシッカリ出て、最終電車に飛び乗って帰ったんです。
私は翌日が誕生日だったのですが、日付が変わる頃に帰宅したら、平日なのに誕生日ケーキを焼いて待っていてくれたんです。そのまま夜中にお祝いして。その日の緊張が優しくほどけていく幸せな時間でした。
起業前と比べて、ミシンで小物を手作りしたり、手の込んだ料理を作ったりする機会は減ってしまいました。子どもたちより早く寝てしまうこともしばしば。正直心苦しくなることもあるのですが、娘たちは「ママの会社で働く人は幸せだね。がんばって」といつも応援してくれます。
単身赴任の夫とは、仕事の話はあまりしません。肩の力を抜いて他愛もない会話をする時間が、私にとっては何より大切です。コロナ禍でなかなか会えない日が続いていますが、やはり一番の理解者だと感謝しています。

Q:株式会社ケイリーパートナーズの当面の目標を教えてください。

弊社の強みは「女性ならではの寄り添い力と最高のチームワーク」です。
事業展開としては、クラウド会計の導入支援、建設業ICT分野の営業支援、書類のデータ化を含めたオフィスファイリングなどで新しい引き合いをいただいており、コロナ禍で一気に需要が増えたデジタルの領域について、目の前のお客様と誠実に向き合い、その現状に寄り添いながら、お役に立てることを増やしていきたいと思っています。また、企業整理収納など、女性チームならではの特性を活かした商品展開も積極的に進めていきます。
人財育成では、弊社内各チームの核となるディレクターを育成することで、チームを自走させ、新規採用に繋げていきたいと思っています。地域の労働参加率向上のためにも、子育て女性活躍のモデルケースを作り続ける会社でありたいと思います。

先日、スタッフがオフィスに連れてきた小学生のお子さんが、「私もケイリーのようにお母さんたちが楽しく働ける会社を作りたい」と夢を語ってくれました。また別のお子さんは、「ママ、絶対にケイリーを辞めないでね」と話しかけます。涙が出るほど嬉しい光景でした。
10年前、「福島の子どもたちに明るい未来を」という想いだけで踏み出した第一歩は、今、「子育て女性の多様で持続可能なキャリア構築支援」に繋がっています。近年、「キャリア教育」の必要性と意義が語られ、学校教育も大きく変わりつつありますが、子どもたちが何より影響を受けるのは間違いなく親の価値観だと感じています。中でも、幼少期の長い時間をともに過ごす母親の影響はとても大きいはずです。だからこそ、自分の人生を楽しみ、健やかに、生き生きと働く子育て女性を増やすことには大きな価値があると思います。その背中を見た子どもたちは、きっと新しい時代をより良く前へ進めてくれることでしょう。
目指す未来に向かって、想いに一点の曇りもない仕事を積み重ねていきたいと思います。

Q:最後にこれから起業したいという女性に何かアドバイスをお願いします。

以前に比べて、女性の起業には追い風が吹いていると思います。多様性が謳われる中で「ロジカル」より「エモーショナル」が重要視される時代に入っているように感じるからです。また、勝ち負けでなく、みんなにとって幸福度の高い事業づくりが求められる中で、女性らしさを活かしやすい時代だと思います。
「こんな景色を見たい」あるいは「これは絶対に譲れない」といった自分の想いを大切に、ぜひ一歩を踏み出していただければと思います。

株式会社ケイリーパートナーズ

住所:福島県郡山市台新一丁目31-9 (台新オフィス)
問い合わせ:024-922-1321 info@kaley.co.jp
ホームページ:https://www.kaley.co.jp/

鷲谷 恭子さん

支援者の顔

  • 氏名:三部香奈 (さんべ かな)
  • 所属等:一般社団法人グロウイングクラウド 代表理事
  • 支援可能な地域:オンラインなら全国どこからでもご相談対応可
  • 実績等:会計事務所の企画室長を務める傍ら、2014年に起業家の育成・支援を行う一般社団法人グロウイングクラウドを設立。郡山で初めてのコワーキングスペースco-ba koriyamaを開設し、多様な働き方、多様な生き方を広めるための勉強会やワークショップ等を企画開催。2018年に中小企業庁の認定創業スクール10選に選出。2019年から起業家応援イベント「地域クラウド交流会」を郡山市で開催しているほか、鷲谷恭子さんらとケイリーパートナーズを設立し、多様な働き方を認め合える組織作りにチャレンジ中。
  • 参考:一般社団法人グロウイングクラウド https://glowingcloudkoriyama.jimdofree.com/